稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

赤岳 - 天国と地獄の八ヶ岳 (2015.9.5)

 

ルート : 美濃戸 → 地蔵尾根 → 赤岳 → 阿弥陀岳・手前 →  美濃戸 (周回)
天候 : 晴れ

 

詳細な山行記録は … ヤマレコ

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8月中旬からずっと天気が悪かったけど、久しぶりに好天となった9月の週末。
日帰りで八ヶ岳の赤岳、阿弥陀岳を狙うことにした。

もともと、前回の白馬三山の後はスケジュールが空いていなかったので、
自分が山に行けるときだけ晴れてくれるなんて幸運、と思っていた。
実際に、山は今回も素晴らしい風景を見せてくれた。

しかし、結果を先に言ってしまえば、この日、僕は途中で捻挫をして、満身創痍で下山することになる。

天国から地獄のような、晩夏の八ヶ岳
ことの顛末をレポートする。

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今回の予定は、美濃戸から行者小屋を経て、地蔵尾根を上がり赤岳へ。
そこから阿弥陀岳に縦走し、行者小屋に下りて美濃戸に戻るコース。
コースタイムは9時間ぐらいのなので、あまりゆっくりはできないかなと。

悪路で有名な美濃戸への林道は確かに荒れていた。
後続車がいたので、写真は撮ることができなかったが、絵に描いたようなデコボコ道。
ただ、腹打ちしそうな箇所でも十分に減速すれば、なんとか大丈夫かな、という印象。
路面状況が見づらい夜間や雨の時は、確実に難易度が上がると思う。
少しでも車を傷つけたくない人は、やめておいた方がいいかも。

美濃戸口からノロノロ走行で15分ぐらい、
5:15の到着だったが、駐車スペースは残り少なくてちょっとびっくり。
やまのこ村に車を停めて、5:50に登山開始。

まずはゆるゆると林道を歩けば、すぐに美濃戸山荘。
山荘の前の看板を見れば、今回、巡るコースがよく分かる。


南沢を遡って行者小屋へ。
そこから、八ヶ岳の稜線まで一気に登り詰める地蔵尾根が、今回の頑張りどころだろう。
赤岳を制したあとは、中岳を経由して阿弥陀岳へ。
この稜線は最も楽しみにしている場所でもある。

行者小屋までは傾斜が緩くて、ウォームアップにはいいけど、長くて単調な道のり。
南沢のせせらぎが気持ちいいのが救いである。


やがて道は八ヶ岳の麓らしく苔むして鬱蒼したコメツガ、シラビソなどの原生林の中を行くようになる。 


途中、涸れ沢に出ると八ヶ岳の稜線が見えた。
快晴の空に突き出した大同心・小同心の岩稜も。

 
再び苔の森へ。朝の光が差し込んで、なんだか神々しい。


だいぶ日が高くなったので、登山道も明るくなって、いい雰囲気に。
行者小屋までもう少し。

 
行者小屋の少し手前で目指す赤岳を視認。 
堂々たる山容を目の前にして、気持ちが昂ぶっていくのを感じる。


7:40 行者小屋
行者小屋までほぼ2時間の道のりであった。
ここから赤岳へは地蔵尾根と文三郎尾根の2ルートがあるが、いずれもきつい登りとなる。
小屋の前では、たくさんの登山者がこれからの急登に備えて準備していた。


小屋前から見上げる赤岳。
天気はいいが、すでにガスが絡み始めている。早く登らなくては。


こちらは赤岳の後に向かう予定の阿弥陀岳


地蔵尾根に入るとすぐに、これまでとは打って変わって、とにかく急な登り。
最初に登場した階段も、梯子といってもいい角度だった。


傾斜が急な分、高度を稼ぐペースも早い。
一気に視界が開けて、眼下に八ヶ岳の森が広がってきた。


大同心・小同心が間近に見える距離まで登ってきた。鋭い岩稜が空に伸びている。
その向こうには、一転、穏やかな山容の硫黄岳が顔を覗かせている。


振り返ってみると、行者小屋から一気に登って来たのがわかる。
写真だとうまく映っていないけど、背後には穂高の山々も連なって見えてた。


右側に目をやれば、赤岳から続く中岳と阿弥陀岳


この急な階段を過ぎたあたりからが地蔵尾根の核心部かな。
しばらく岩場登りが続くようになる。


核心部っていってもそれほど難しい箇所はなく、登る分にはむしろ面白かった。
ただ、下りはちょっと怖そう。
ちょうど下山者とすれ違ったが、足元が崩れやすく、慎重に下っていた。
雨などの場合はいかにも滑りそうなので、細心の注意が必要だろう。

 
核心部を過ぎても、ややザレ気味の急斜面が続く。一歩一歩で、汗がしたたり落ちる。
ところで、地蔵尾根の岩は、“赤岳” というだけあって、やはり赤色、なのか?

 
途中、登山者を見守ってくれるお地蔵様が鎮座していた。


八ヶ岳の主稜線に構える横岳も大きく見えるようになってきた。


赤岳の山頂もだいぶ近づいた。なかなかの迫力だ。
勢いよく回る赤岳展望荘の風力発電のプロペラも見える。


稜線まで最後の鎖場を慎重に登って…


8:50 地蔵の頭
縦走路の交差点、地蔵の頭に到着。
行者小屋から50分で、意外に呆気なかったが、ひと登り終えた充実感で満たされる。
ここでザックを下して、しばしの休憩。


南側には、少し雲が掛かっているが、それで余計に荘厳な雰囲気に見える赤岳山頂。
ここまで来れば山頂までわずかと思っていたが、もう一仕事、必要だな…


反対側は横岳に向かう八ヶ岳の険しい主稜線。
次の機会を作って、あっちにも行ってみたい。やっぱりツクモグサの季節かな。


今回の山行で赤岳以上に心が惹きつけられたのは、この阿弥陀岳
山頂の手前は急な岩場登りらしい。
この時はあの頂に登ってやる、と意気込んでいたのだが…


休憩しながら眺望を楽しんだ後、赤岳展望荘へ。
東側からガスが上がってきて時々、頂上が見えなくなったけど、
ちょうどこの稜線が雲を堰きとめているようで、それがいい雰囲気。
ただ、赤岳の左肩に見えるはずの富士山は拝めず、ちょっと残念。


赤岳展望荘を過ぎて、いよいよ赤岳に向けて最終アタック!
ってほど、大袈裟なものではないけど。


急斜面を一気に登る。
たちまち高度感は高まり、振り返ると横岳に続く稜線がカッコいい。


頂上直前は予想以上に険しい登りだった。
上から降りて来る登山者も多いので、すれ違いは慎重に。


地蔵の頭から30分ぐらい掛かって赤岳頂上山荘に到着。
ここまで来れば、山頂は目前。登山者で賑わうピークに向かう。


9:35 赤岳山頂
そして、赤岳の山頂に到着。美濃戸から4時間弱での登頂だった。
疲労感もそれほどなく、意外に簡単に登れてしまった印象。
でも、当然、達成感は計り知れないものがある。


下界は雲が広がっていて、眺望はちょっと微妙な感じ…
権現岳は雲に飲み込まれ、キボシにも襲い掛かろうとしていた。
その横の丸い頂きは、冬に登った編笠山
あの時、眺めた雪景色の八ヶ岳の感動が思い出される。
背後の雲から顔を出している南アルプスは、そのフォルムからすると仙丈ケ岳だろうか? 


赤岳のとなり、存在感のある阿弥陀岳
山頂直前の登りは険しそうだ。


穂高方面は槍ヶ岳から前穂高まで、しっかり見えていた。


そろそろ出発しようかと思ったら、一瞬、雲が切れて富士山の姿も!


山頂の風景を楽しんだら、阿弥陀岳に向かう。
まずは少しだけキレット方面に下ることになるので、お間違いなく。


キレット方面との分岐を過ぎると、ここも結構ハードな岩場。
文三郎尾根から登ってくる人が多いようで、少しすれ違い待ちが発生。


下り途中で振り返ると、かなり険しい稜線。


そして、楽しみにしていた阿弥陀岳に続く、伸びやかで、そして、開放的な稜線が目の前に。
穏やかさと険しさを併せ持ったこの風景は、
個人的には、これまで目にしてきた山の風景の中でも、かなり上位。
気持ちが高揚していった。  


岩場をクリアして、文三郎尾根との分岐から赤岳を振り返る。
こうして見上げると、赤岳はひとつの大きな岩の塊に見える。


さあ、いざ阿弥陀岳へ。
直線的に並んでいるので分かりづらいが、阿弥陀岳との間には中岳というピークがある。
まずは中岳手前の鞍部まで、ザレた斜面のつづら折りを下って行く。


そして…、ここで、やってしまった。
浮石に乗って、バランスを崩す…

よく 「グキッ」って表現されるけど、そんな感じではなかった。
もっと恐ろしい音が聞こえたように思う。
「ゴクッ」というか、今でもあまり思い出したくない、めちゃくちゃ嫌な音だった。

足首を思いっきり捻挫…。かなり激痛。
堪らず道脇に座り込む。
とりあえず、動かないということはないので、骨折とかではなさそう。

恐る恐る立ち上がり、一歩、歩いてみる。
これは結構やばいかも…
普通に歩くだけでかなり痛い。

ストックを出して、それに頼って、中岳手前のコルまでなんとか降りて来た。


足首が大きく腫れているのを感じる。
湿布を持っていたので貼ろうかと考えたが、一度、登山靴を脱いだら、
再びは履けないんじゃないかと思って、怖くて脱げなかった。(判断的には、たぶんNG)

冷や汗というか、あぶら汗か?
とにかく心地の悪い汗がしたたり落ちる。

なんでザレた下りで、ストック出さなかったんだ…、って悔いる。
阿弥陀岳に登るのに仕舞わないといけないのが分かっていたので、面倒臭く感じたからなんだけど、
そもそも、ストックに頼ってる下り方自体がダメじゃん。
って、今の状況はどうにも変わらないのに、余計なことまで、頭の中でグルグル考えていた。

でも、座って風を浴びていたら、少しずつ冷静さが戻ってきたようだ。 
まずは目の前の中岳を登らないと。

10:45 中岳
ストックをまさに杖として使って、なんとか中岳を登り切った。
普通であれば大した登りではないけど、とにかく必死に登った。


ここで簡単に食事をして休憩。
もちろん阿弥陀岳は諦めて、自力で下山することに目標を切替える。

中岳を出発する前に撮った赤岳。
ジグザグに降りてくるザレ気味の斜面、あそこでやってしまった。
雄大すぎる風景が、ここから下界に帰る険しさを示しているようで、ちょっと不安になる。


行者小屋があんなに下に見える…
気持ちを奮い立たせて、歩き始めるしかない。 


中岳のコルと名の付いた行者小屋への分岐から見上げる阿弥陀岳山頂。
今は、またいつかこの山に挑戦しようと思うけど、あの時は、そんな余裕があるわけもなく。


さっきまでの楽しい山登りが、今はただただツライ時間。
なんだか悲しくなる…


樹林帯に入ると石ころが増えて、これがまた厄介。
足の置き場を間違えると激痛が走る…


行者小屋に帰還。
中岳から1時間ちょっとかな。痛いながらもそれ程、時間は掛からなかった。
まだ美濃戸までは距離があるけど、少しだけほっとする。
山小屋はそこにあるだけでありがたい。


ただ、そこから美濃戸に戻るまでが、とにかくつらかった。
足の痛みは徐々に増して行き、それをかばって膝まで痛くなってきた。
前に進むので必死で、写真は一切なし。
超鈍足でもなんとか進んで、美濃戸に着いた時には、なんだか力が抜けちゃった。


行者小屋からは2時間半。
何度も小休憩を繰り返した割には、思ったよりも掛かっていない。
けれど、確かに永遠にも思える道のりだった。

最後は足を引きずりながら、駐車したやまのこ村に戻った。
とりあえず、なんかと自分で降りてこれて良かった安堵感。


その後、足の痛みは1週間ぐらい引かなかった。
普通にしている時は大丈夫でも、少し変な力の掛け方になると痛むというのが、
完全になくなるのまでは、かなり掛かった。

山での事故、怪我でありがちな、難所を越えた後の気の緩み。
そういうつもりはないけれど、当てはまってしまう。

不思議と、山にはもう登らない、とは思わなかった。
時に雄大で、時に険しく、時に優しい表情を見せてくれる山で過ごす非日常的な時間、
そこで得られる色んな感情を求めて、また登りたくなってしまう。

もう、山は自分の中で、欠くことのできない存在なんだな。
しっかり安全を見つめ直して、また、山と付き合っていきたい。