唐松岳:山登りの記録
日程:2012. 8. 25(日帰り)
天候:晴れ 時々 曇り
コースタイム
※ 八方池山荘:前泊
八方池山荘 5:00 → 八方池 5:50 - 6:30 → 丸山 7:40 → 唐松岳頂上山荘 8:25
→ 唐松岳 8:45 - 9:15 → 唐松岳頂上山荘 9:30 - 10:05 → 八方池 11:30
→ 八方池山荘 12:05
登山時間:7時間05分
Introduction:はじめてのアルプスにて
はじめての北アルプスだった。
8月の終盤、アルプス入門の山といわれる唐松岳に八方尾根から登った。
振り返れば前の年の夏、初登山として登ろうと思っていたのが唐松岳で、色々とあって (まあ、カメラが壊れただけだけど:金時山)、結果的には一年間かけて多少なりの経験を積んでから相対することになった山。
唐松岳登山の代名詞といえば八方池であり、その水面に白馬連峰が映る風景はあまりにも有名だろう。
八方尾根、山頂から眺める後立山連峰、立山、剱岳の姿も忘れてはいけない。
そして、たくさんの高山植物。
今回、幸運にも、それら唐松岳の魅力を余すところなく味わうことができた。
それは、単に ”はじめてのアルプス” ということだけでなく、生涯、特別な時間として心に刻まれるであろう山行となったのである。
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一番楽しみなのは、やはり八方池なのだが、それ自体は観光地の領域内と言っていい。
ゴンドラ、リフトを乗り継いで、そこから1時間ほどのハイキングでたどり着くことができる。
せっかくなら静かな時間に訪れたい。
ならばと、ちょっとだけ思い切って、リフト終点にある八方池山荘に前泊することにした。
ちなみに、山荘へはメインアクセスのゴンドラは使わず、黒菱からリフトを乗り継いだ。
黒菱までの道は多少狭いが、こっちの方が金銭的な節約はできる(半額ぐらい)。
この日、歩いたのはリフト乗り場の間の数百メートルのみ(苦笑)
まったく労せずに1830mの八方池山荘に到着。
山荘の裏から17時半の空。
稜線に掛かった雲からの斜光がきれいだった。
白馬三山を目の前に、翌日の山行に思いを馳せ、なんとなく気持ちが高まる。
このあとはガスが出て、何も見えなくなってしまった。
翌日の天気予報は曇りだが、晴天を祈って早めに就寝。
夜、かなり強い雨音で目が覚めたけど、明け方、トイレに行ったついでに外に出ると、空には天の川が広がっていた。
これは期待できそうである。
八方池は静寂の水鏡
5:00 八方池山荘(登山開始)
翌朝、日の出時刻の5時に出発。
小屋にはそれなりに宿泊客がいたが、この時間に発つ人はいないようだった。
天気はややガスが掛かっていたが、上空には雲はない。
白馬三山の向こうに朝焼け色の雲を眺めながら、八方池に向かう。
やがて、鑓ヶ岳の頂上部から赤く染まりはじめ、杓子岳、白馬岳もそれに続く。
モルゲンロートの白馬三山である。
そして、振り返れば雲の向こうから朝日が昇ってくる。
陽が昇るにつれて下からガスも上がってきた。
ちょうどこのあたりが雲の境目のようで、下界は曇り空なのだろう。
赤く染まってきれいだけど、ガスから逃げるように、ややスピードを上げて登っていく。
しばらく登ると西側に五竜岳、その向こうに鹿島槍が見えるようになった。
朝の光を受ける八方山ケルンを通過。
きりりと冷たい朝の空気が溶けていくような感じ。
途中、夜明け前に黒菱から出発した単独の登山者に抜かれた以外は誰にも会わず。
静かな山の朝だ。
八方池が近づくころには、空の青さがはっきりとしてきた。
5:50 八方池
ゆっくり朝の風景を楽しみながら、50分掛けて、八方池に到着。
思わずひとりで「おぉ」と声を上げてしまった。
足早に池の畔へ降りると、まったくの無風のおかげで、見事までの水鏡がそこにあった。
白馬三山から天狗の大下りに続く稜線がくっきり水面に映りこんでいる。
トレランの人がちょこっとだけ写真を撮って、またすぐに走って行ってしまったあとは、随分と長い間、ひとりでこの風景を眺めていた。
まさに ”時がたつのを忘れて” とか、そういう感じで。
小さな祠の背後に迫る峰々。
なにか神々しさとか、そういうものを感じられずにはいられない。
出来過ぎというか、思いもしなかった奇跡のような風景を目の前にして、ただただ、この時、この場所で、この風景に出会えた幸運を噛みしめていた。
高山植物を愛でながら八方尾根を登る
さて、八方池からは唐松岳への本格的な登りがはじまる。
白馬連峰の素晴らしい眺めを横目に、どんどん高度を稼いでいく。
あの稜線からこちらを眺めている人もいるだろうか?
ここまで全然、木が生えていなかったのに、ここに来て樹林帯に突入。
なんか不思議な植生である。
ダケカンバがいい感じ。
ダケカンバの林を抜けると、今度は高山植物のお花畑が登場。
アザミかと思ったら、タムラソウというのだそうだ。
見分けるポイントは、葉っぱにトゲがないこと。
上の方に雪田も見えてきた。
写真をたくさん撮りながらのゆっくりペースで進む。
左側には五竜岳を眺めながら。
さっき見えていた扇雪田からちょっと急登をこなして、丸山に向かう。
その途中にも少しだけ雪が残っていた。
そのまわりには…
大好きな大好きなチングルマが咲いていた。
こちらはチングルマの果穂。
露が乗っかっていて、キラキラときれいだった。
7:40 丸山
花を楽しみながら、丸山ケルンに到着。
足元は唐松沢に向かって大きく切れ込んでおり、その向こう側には迫力の展望が広がっていた。
白馬三山には、早くも雲が掛かってきてしまった。
五竜岳にも雲が迫っている。
どこか秋を思わせる高い空には、飛行機雲の交差点ができていた。
丸山で少し休憩した後、唐松岳へはもう少しの頑張り。
唐松岳から続く不帰ノ瞼(3峰、2峰)がたいぶ近づいて見えてきた。
僕があそこを歩く日は来るだろうか?
五竜岳への縦走もいつか必ず。
この日、唯一の危険箇所?を越えて。
落ちたら大変だけど、足場はしっかりしており、怖さは感じなかった。
※ 現在、この巻き道は崩落によって通行止めになっている模様。そのまま尾根筋を行くようである。
そして、なんだか唐突な感じで、唐松岳頂上山荘が見えてきた。
北アルプスの稜線から大展望を味わう
8:25 唐松岳頂上山荘
はじめて乗っかった後立山連峰の稜線。
まだ山頂に立ってないけど、これだけでも十分な達成感である。
唐松岳の山頂に向かう稜線は、気持ちのいいプロムナード。
時々ガスが通り過ぎていくが、すぐにクリアになるので、眺望が遮られることはなかった。
8:45 唐松岳
そして、山荘から20分ぐらい登って、唐松岳山頂に到着。
山頂からは360度の眺望である。
到着時にいたソロの青年が降りていってしまったら、八方池に続いて僕ひとりだけに。
まずは北側、不帰ノ瞼。
いつかはここを歩いてみたいような、歩いてみたくないような。
その左側は山座同定できないけど、黒部五郎岳とか薬師岳あたりが見えているのだろうか?
剱岳のアップ。
きちんと見るのははじめてだったけど、その男気溢れるというか、めちゃくちゃカッコいい姿に、惚れた(笑)
南側は、五竜岳が雲を堰き止めているよう。
東側、唐松沢を覗き込むと結構、迫力がある。
誰もいない静かな山頂で、この雄大な景色を眺めながら、ちょっとだけ “山に登る意味” みたいなことを考えていた。
実際のところ、山に登る場合、ネットやガイド本で下調べをしていくので、出会う風景は大体の場合、写真を見て知っている風景。
でも、自分の足で歩き、自分の目で見る とやはり感じるものは違う。
その時の暖かさや寒さだったり、感じた風の強さ、人との出会い、登ってきたことの達成感やその場所で思い感じたことなどをリンクさせて、知っている風景を “自分だけの山の風景” に変えていく。
それこそが、山に登ることの価値であると思った。
30分ぐらい景色を眺めて、人もだんだん増えてきたので、そろそろ下山とする。
八方尾根にも、だいぶ雲が湧いてきた。
下りは花の写真を撮りながら、のんびりと。
ほんと八方尾根は花がたくさんである。
カライトソウとお花畑。
最後は、タカネマツムシソウ。
八方池まで戻って来る頃には、あたりはガスが覆っていた。
あちらこちらから観光客の「残念だね」という声が聞こえる。
登りでは気がつかなかったお地蔵様。
背後に湧き上がる夏雲が…、とにかく暑い。
最後はどんどん下って、素晴らしい風景の中を歩けた余韻を感じながら、八方池山荘にゴール。
はじめてのアルプスで、ちょっと出来すぎとも思える今回の山行。
なかなか来ることはできないけど、登りたい山がたくさんできてしまった。
そのひとつひとつで、忘れがたい風景とまた出会えることを思い描きながら、下山のリフトに乗り込んだ。
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<参考>
・ ヤマレコ:山行記録(登山地図など)
・ 白馬八方尾根:ゴンドラ、リフトの情報。トレッキングガイドなど。
・ 白馬村営山小屋:今回は八方池山荘に前泊。