稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

涸沢 - 秋色で溢れる場所へ (Day 1 ; 2013.10.3)

 

 

ルート :
(1日目) 上高地 → 横尾 → 涸沢 (涸沢ヒュッテ 泊)
(2日目) 涸沢散策 → 屏風の耳 → 徳沢 → 上高地

天候 :
(1日目) 曇り のち 晴れ 
(2日目) 晴れ 時々 曇り

------

休日出勤の代休を使って山登り。
立山を縦走して剱岳を眺めに行こうと考えていたが、
楽しみのひとつである雷鳥沢の紅葉は、見頃を過ぎてしまったとの情報あり。

せっかくなら紅葉が盛りの山に行きたいので予定変更。
北アルプスの涸沢がいい感じになってきたようで、でも、山小屋が混むだろうなと、ちょっと躊躇。
それでも、平日の涸沢に行けるチャンスなんて、そうないだろうし、思い切って決めた。

天気予報は曇りで、朝は雨の可能性もあった。
高山から平湯温泉への国道は路面が濡れていて、ついさっきまで降っていたようだ。
あかんだな駐車場から始発のバスに乗り込み、上高地までは40分ぐらい。
7時ちょうどにバスターミナルに到着すると、予報に反して青空が見えはじめていた。

期待を胸に河童橋に向かうと、ちょうどガスが切れて穂高の稜線が姿を現すところだった。

 


振り返れば、山頂にちょこんと雲を乗せた焼岳。

 


河童橋の袂で穂高を見上げながら、買ってきたパンで朝食。

ちなみに、上高地に来るのは中学の修学旅行以来で、20年ぶり。
その時は、見事なまでの快晴で、
バスガイドさんが「こんな完璧な上高地は滅多にない」と言ったのを印象深く覚えている。

あの時の美しい穂高の稜線とかわいいバスガイドさんと一緒に撮った写真。
今度、実家に戻ったら探してみよう(苦笑)

話は逸れたが、そんな昔のことを思い出しながら、最初の目標、横尾に向けて歩き出す。
小梨平のキャンプ場から穂高をアップで。中腹はいい感じで紅葉しているようだ。

 


横尾までの長い長いアプローチ。まずは梓川の左岸を明神へ。
朝の光がこぼれる道を進んでいく。

 


明神岳の2263峰。他はガスの中だった。梓川の流れがきれい。

 


ずっと梓川を見ながら歩くのかと思いきや、林の中が多くて淡々と歩くのみ。
平日とはいえ、登山者の数は多い。みんな涸沢を目指すのだろうか?

上高地から1時間半ちょっとで徳沢に到着。気持ち良さそうなキャンプサイトが広がっていた。

 


横尾までは上高地から休憩なしで歩いて2時間半だった。
吊り橋の向こうに屏風の頭が見える。上部はきれいに紅葉していそうだ。
ただ、いつの間にか空は雲で覆われていた。

 


横尾山荘の前で少し休んで、いよいよ涸沢への登りに掛かる。
屏風岩を見上げながら、まわり込むように横尾谷を登っていく。

 


たくさんの人が休憩していた本谷橋。
正面に見えるはずの北穂は、残念ながらガスの中である。

 


本谷橋を過ぎると、やっと本格的な登りがはじまる。
色づきはじめの紅葉の中を潜るように涸沢を目指して歩く。

 


右に横尾本谷を分けて、道が“涸沢”に沿うようになる頃、雲が切れて青空が見えるようになった。
谷を挟んだ向こう側、北穂の末端になるのだろうか?
斜面の紅葉に陽が当たって輝き出す。

 


横尾本谷は上から下まで、ぎっしり紅葉で埋め尽くされている。

 


そして、姿を現した北穂のピーク部。尾根の紅葉が鮮やかだ。


正面に涸沢岳が見えてきた。尖った涸沢槍が目を引く。


いよいよ涸沢は目前で、足早に…、となりそうだが、目の前の紅葉がそうはさせてくれない。
このあたりは黄色の密集度が濃い。



まだ葉っぱに緑が残るナナカマド。


涸沢ヒュッテの吹流しが見えて、最後の登り。


そして、ヒュッテ前の階段を駆け上がり、テラスに出ると…
やって来ました、涸沢。
空は再びガスが掛かってしまったけど、憧れの紅葉が目の前に。


今までに何度も写真やテレビで見た、あまりにも有名な紅葉の風景だけど、
やはり自分の目で見るということは特別なこと。
ちょっと感動した。

ヒュッテで宿泊の受付を済ませた後、紅葉散策に出掛けた。


ちょうど稜線のガスが晴れていくところだった。
午後の逆光の中で、僕の拙い写真ではその鮮やかさを伝えるのは難しいけど、
この目で見た涸沢の紅葉は、ただただ、すごいの一言。


“円形劇場”なんて形容されるが、そのスケール感は想像していた以上のものだった。
見上げる視線の先に、ぐるりと取り囲むように続く穂高の稜線。
その懐に、ダケカンバの黄色、ナナカマドの赤色の鮮やかな紅葉。
それをハイマツの緑色が引き立てて、見事なコントラストである。

カール中心部の紅葉に近づき、見上げた涸沢槍の存在感。
その“尖がり度”は槍ヶ岳にも負けていない。


涸沢小屋は紅葉の波に飲み込まれそうに建っている。
ちなみに、北穂高岳の山頂は見えているピークの奥らしい。


カールの方ばかりに目が行ってしまうが、屏風の頭もいい色づきだった。


前穂の側は雪渓と紅葉のコントラスト。


前穂高岳の山頂を見上げる。岩の砦といった感じの迫力だ。
今回は涸沢の紅葉を目当てに来たので、登る予定はないのだが、
目の前にすると、やはりあの場所に行ってみたいという気持ちに駆られなくもない。


でも、今はそれは置いといて、目の前に広がる涸沢の秋を心に焼き付けよう。

太陽は早くも穂高の稜線の向こう側に消えていき、カールの中に陽が差し込んで来ることはない。
それでも寒いということはない。

ちょっと大きな岩の上に座って、前穂の北尾根を眺めていた。
ちょうど西日が当たって、錦色の紅葉が輝きを増していく。


光の差し方で風景が刻々と変わっていく様は、
ゆっくりだけど、確かに時間が流れていることを感じる瞬間である。

何を考えるでもなく、ただただ稜線を見上げて、ぼーっとしていると、
不意に誰かに、「山の懐に抱かれている感じで、いいねぇ」 なんて声を掛けられて、
なんだか気恥ずかしい思いをする。

でも、“今、山とひとつになってた?” みたいに思えて、ちょっとだけ嬉しかった。

やがて、寒さを感じるようになったので、小屋に戻る。
ちなみに、この日、涸沢ヒュッテは布団1枚に2人の混雑だった。
なかなか寝付けなかったのは、その窮屈さのせいだけじゃなく、
きっと忘れることのない秋の涸沢に出会えたことの余韻もあったに違いない。

------

(1日目) 上高地 → 横尾 → 涸沢 (涸沢ヒュッテ 泊)
(2日目) 涸沢散策 → 屏風の耳 → 徳沢 → 上高地