稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

雨乞岳 - 深秋の鈴鹿、笹の海を掻き分け稜線散歩

 
日程 : 2017.11.12(日) 日帰り
ルート : 甲津畑 → 大峠 → 清水頭 → 雨乞岳 → 杉峠 → 甲津畑(周回) 
天候 : 晴れ(風強し)
 
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鈴鹿セブンマウンテンの一座に名を連ねる雨乞岳。
ここにずっと歩いてみたかった笹原の稜線があった。

雨乞岳は御在所岳に近く、メインルートは鈴鹿スカイラインの武平峠が登山口になる。
しかし、今回歩くのは、近江側の甲津畑をスタートする裏ルートである。
大峠、清水頭を経由して雨乞岳に向かうルートは、地図上では破線となっている。
距離も所要時間もこちらが断然、長い。
それでも、あえてこのルートを選ぶ理由は、前述の稜線がとにかく素晴らしいからである。

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7:05 甲津畑・鳴野橋(出発)
アクセスは名古屋からいなべを経由し、石榑トンネルを抜けて甲津畑へ。
集落を過ぎて5分ほど林道(舗装)を走り、鳴野橋手前の路肩に駐車する。
10台ほど停められるスペースがあり、先客の3台はすでに出発済みであった。

一般車は通行できない岩ヶ谷林道の起点から本日の山行をスタート。


しばらくは川に沿った林道歩き。この道は歴史ある千種街道で、趣のある雰囲気だった。
千種街道は近江と伊勢や尾張方面を結び、商業的、政治的に要衝路であった。
かつて織田信長がここを通った際に狙撃を受けたとの記録もある。
道中には狙撃手が身を隠した「善住坊のかくれ岩」があったが、少し寄り道になりそうなので、今回はスルー。


まだ陽が差し込んで来んできていないが、紅葉の色づきはまずまずのようだ。
落ち葉を踏みしめながら進む。


見上げた空に黄葉が透ける。


沢の対岸では、朝日を受けて紅葉が輝いていた。
鈴鹿の紅葉は初めてだったが、これが予想以上に鮮やかで、嬉しい誤算である。


林業か猟師か分からなかったが、山師の集まる作業小屋?の前を過ぎると、道は細くなる。
やや心許ない小さな橋を渡って、さらに先へと進む。


スタートから1時間とちょっとでツルベ谷出合に到達。
ここから千草街道を離れて大峠に向かうが、やはりメインのルートではない様相である。
ただ標識はしっかり出ているので、それなりの整備を期待していいだろう。


分岐から少し進むと沢に降りて徒渉となる。
ここが今回のコースで一番の核心部かも知れない。
水の勢いはなかなか強く、水量が多い時には渡るのが難しくなることもあるかと思う。


ここを通過した後も、徒渉を何度も繰り返すして行く。
しかし、最初以外はどれも難しくない。


破線ルートなので、全体的に荒れ気味であるのは確か。
足元が崩れやすいところが随所にあるので、注意しながら登るべき。


テープ類はたくさん付いているので、しっかりと探しながら沢を詰めていく。


ここまで上がって来ると、紅葉は終盤だったが、真っ赤なモミジが残っていた。


最後は涸れ沢を登り詰めて、大峠までもう少し。
このあたりは踏み跡が不明瞭になり、ルートがわかりにくい部分もあった。
なお、地形図に記載されている道ではなく、ひとつ東側の沢を登ることになる。


9:15 大峠
ツルベ谷出合から1時間掛かって大峠に到着。
ここで、綿向山から雨乞岳に連なる稜線に乗っかる。


大峠からは稜線に沿って東に向かう。
すぐに急登(本日一番)が始まるが、ここのルートもわかりづらかった。
右側の崖を避けるように広い斜面を登って行ったが、落ち葉でズルズル滑って苦労した。
崖に沿うように道が続いていたようで、そちらが正解だった。


急登をクリアするとシャクナゲのトンネルに。


大峠からはずっと展望の利かない道だったが、不意にルート上に大岩がある。
それに登ると目的地の雨乞岳を望むことができた。
まだまだ遠いが、待望の稜線までもう少し。


反対の西側を見ると、崩落の目立つ尖ったピークがあり、これはイハイガ岳。
その先に続いているのは以前、登った時、霧氷が美しかった綿向山。


再びシャクナゲの尾根道を進む。
かなり枝がうるさく、しゃがんで歩かなくてはならない箇所もあった。
そういうところでは方向を失いやすいので、慎重にルートを選んで行く。


シャクナゲ帯を抜けると広々とした広葉樹の林に出る。
明るい雰囲気で、これまで緊張感があったためか、なんだかホッとする場所だった。
踏み跡が多数あるが、広い尾根の真ん中を辿って行けば大丈夫。


ところどころで林が切れて、視線の先に楽しみにしていた稜線が見えてきた。


樹林帯を抜けて、いよいよ稜線歩きがスタートする。
ただし、吹きさらしで風がめちゃくちゃ強い。
思いっきり西高東低、冬型の気圧配置なので、予想はしていたが。
体感温度はかなり低く、慌ててアウターを着込んで再出発。


なだらかで牧歌的な斜面と、その奥に雨乞岳。
頭上では真っ青な空の下、雲がすごい速さで流れている。


稜線からはの眺望は抜群であった。
一番目立つのは、鎌ヶ岳から連なる鈴鹿の主稜線。


出発地の甲津畑方面。紅葉しているフジキリ谷を望んで。
ずっと奥には薄らと琵琶湖の姿も見えた。


断続的に突風が稜線を吹き抜けるが、身の危険を感じるほどではない。
雨乞岳を目指して再スタート。


清水頭(しょうずがしら)を通過。


ここからがこの稜線のハイライトである。
小さなアップダウンを越えて、丸い山容の雨乞岳を目指す。
広々とした稜線に青空。開放的すぎる風景が堪らない。


ただ、ひとつ気になることがある。
事前にネットで見たこのあたり写真では、もっと笹が生い茂っていたはず。
以前は膝下ぐらいまで笹があったようだが、今は枯れてしまったのか、更地に近い状態。

調べてみると、鈴鹿では各所で笹枯れが進んでいるようだ。
笹は地下茎で繋がっているので、育つのも枯れるのも同時期に広範囲で起こるらしい。
今は笹の減退期のようで、その周期は50年とか数十年の単位といわれる。
そういう長い自然の理の中で、山の風景がいつだって同じでなくても当然なのかも。


もう少し進んでいくと青々とした笹も現れはじめて、歩いてみたいと思っていた風景に。
笹原の小径を足取り軽く。


気持ちのいい青空を見上げて登って行く。


歩いてきた稜線を振り返って。
あと一週間早かったら、笹原と紅葉のコントラストが良かっただろうから、少し惜しい気分。


雨乞岳手前の小ピークである南雨乞岳に向かって、徐々に登りがキツくなっていく。
笹は少し深くなって来たが、このあたりはまだ道がはっきりしていて問題なし。


南雨乞岳の直下は、いよいよ笹が濃くなり、掻き分けながら急斜面を登る。


斜面を登り切って、南雨乞岳へは右側に少し寄り道する形になる。
見晴らしのピークからは、正面に御在所岳と鎌ヶ岳が大きく広がっている。
ここでランチとも考えたが、そこそこに風が強く断念。


雨乞岳と東雨乞岳を繋ぐなだらかな稜線。
ここから先は、遠目から見ても笹が深いことがわかった。


ここからが、この稜線の本当の姿? 写真では気持ちよさそうだけど…


いつしか完全に笹の海である。
このあたりは笹を掻き分けて進むのが、まだ楽しい状態。


しかし、雨乞岳の山頂直下は背丈に迫る笹藪に。
慎重にルートを選んでいたつもりだが、最後は完全にロスト。
掻き分けやすい部分があるので、それを探って進むが、あちこちで枝分かれして、どれが正解なのか全然、分からない。
でもまあ、山頂は間近なので、不安になることはない。


11:50 雨乞岳・山頂
結局、最後は半ば強引に笹藪を抜けて、不意に山頂に飛び出した。
朽ちかけた簡素な山頂標が佇む山頂は、少し寂しげだったけど、嫌いではない雰囲気。
個人的には、これで鈴鹿セブンマウンテンを全制覇である。


山頂の片隅に「大峠はここから」の標識があるが、出てきたのはここではない(苦笑)


東雨乞岳に続くなだらかな稜線。こちら側が武平峠から登って来るメインルートになる。


対照的な山容の御在所岳と鎌ヶ岳。なかなかのパノラマである。
その間の背後には伊勢湾と四日市のコンビナートも広がっている。


鎌ヶ岳


御在所岳


それほど広くない山頂では数名が昼休憩をしていたが、ここも風があるので、適当な場所を探しながら、もう少し進むことにする。
下山はまず杉峠に向かうが、標識は見当たらなかった。踏み跡を辿る。


山頂の裏手には、ひっそりと小さな池があった。
名前の由来の通り、ここで雨乞いの儀礼が行われていたらしい。


笹原を下って行くと、正面に鈴鹿北部の山並み。
竜ヶ岳、藤原岳、御池岳と一望できた。さらに奥には伊吹山も。
ちなみに、すぐ向こうの平たい山は鈴鹿の秘境と呼ばれるイブネ、クラシである。


いかにも眺望良さそうな東雨乞岳のピーク。
斜面の木々が紅葉していたら、いかほどの美しさだったことだろうか。


国見岳と釈迦ヶ岳


釈迦ヶ岳の背後には、霞んでいるけど御嶽山の姿もある。


杉峠への下りは湿気を帯びた滑りやすい急斜面だった。
何度か転びそうになりながら、少々難儀して下って行く。


結局、杉峠まで下ってランチ。途中に眺望がいい場所もあったが先客あり。
本日のメニューはインスタントスープを使ったスンドゥブ鍋。
トック(切り餅)を入れたのは大正解だった。


山友はホットサンドメーカーを持ってきて、色々と挟んでいた。
少しお裾分けしてもらったが、これがめちゃくちゃが美味だった。


腹が満たされたら、杉峠から千種街道で甲津畑に下る。
このあたりは晩秋の雰囲気で紅葉は終盤だが、陽だまりがいい感じ。


カフカの落ち葉道が心地よい。


ちょっと頼りなさげな吊り橋で沢を渡る。


標高が下がってくると、紅葉がいい盛りに。


蓮如上人旧跡近くの大シデ。
この街道沿いには他にも巨木がいくつもあった。


晩秋の千種街道は最高の散歩道である。
これまでノーマークだった鈴鹿の紅葉もなかなか侮れない。


ツルベ谷出合で今朝来た道に合流し、ゴールまでラストスパート。
紅葉はこのあたりが最盛期だった。


西日が当たって柔らかい色合いになった紅葉。
こんな風景の中なら、長い林道歩きもそれほど苦にはならない。


眩しいほどの逆光の中で輝く紅葉の道。


杉峠から2時間と少しで下山が完了。紅葉のおかげか、それほど長く歩いた印象はない。
笹原の稜線と紅葉を存分に堪能できた、晩秋の鈴鹿登山であった。
マイナールートで人も少なく、静かな山歩きをしたい人にぜひお勧めしたい。


鈴鹿はなかなか奥深い。
今度はイブネ、クラシなんかも歩いてみたいと思っている。

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