天候 : 晴れ(風強し)
鈴鹿セブンマウンテンの一座に名を連ねる雨乞岳。
ここにずっと歩いてみたかった笹原の稜線があった。
雨乞岳は御在所岳に近く、メインルートは鈴鹿スカイラインの武平峠が登山口になる。
しかし、今回歩くのは、近江側の甲津畑をスタートする裏ルートである。
大峠、清水頭を経由して雨乞岳に向かうルートは、地図上では破線となっている。
距離も所要時間もこちらが断然、長い。
それでも、あえてこのルートを選ぶ理由は、前述の稜線がとにかく素晴らしいからである。
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7:05 甲津畑・鳴野橋(出発)
アクセスは名古屋からいなべを経由し、石榑トンネルを抜けて甲津畑へ。
集落を過ぎて5分ほど林道(舗装)を走り、鳴野橋手前の路肩に駐車する。
10台ほど停められるスペースがあり、先客の3台はすでに出発済みであった。
一般車は通行できない岩ヶ谷林道の起点から本日の山行をスタート。
しばらくは川に沿った林道歩き。この道は歴史ある千種街道で、趣のある雰囲気だった。
千種街道は近江と伊勢や尾張方面を結び、商業的、政治的に要衝路であった。
かつて織田信長がここを通った際に狙撃を受けたとの記録もある。
道中には狙撃手が身を隠した「善住坊のかくれ岩」があったが、少し寄り道になりそうなので、今回はスルー。
まだ陽が差し込んで来んできていないが、紅葉の色づきはまずまずのようだ。
落ち葉を踏みしめながら進む。
見上げた空に黄葉が透ける。
沢の対岸では、朝日を受けて紅葉が輝いていた。
鈴鹿の紅葉は初めてだったが、これが予想以上に鮮やかで、嬉しい誤算である。
林業か猟師か分からなかったが、山師の集まる作業小屋?の前を過ぎると、道は細くなる。
やや心許ない小さな橋を渡って、さらに先へと進む。
スタートから1時間とちょっとでツルベ谷出合に到達。
ここから千草街道を離れて大峠に向かうが、やはりメインのルートではない様相である。
ただ標識はしっかり出ているので、それなりの整備を期待していいだろう。
分岐から少し進むと沢に降りて徒渉となる。
ここが今回のコースで一番の核心部かも知れない。
水の勢いはなかなか強く、水量が多い時には渡るのが難しくなることもあるかと思う。
ここを通過した後も、徒渉を何度も繰り返すして行く。
しかし、最初以外はどれも難しくない。
破線ルートなので、全体的に荒れ気味であるのは確か。
足元が崩れやすいところが随所にあるので、注意しながら登るべき。
テープ類はたくさん付いているので、しっかりと探しながら沢を詰めていく。
ここまで上がって来ると、紅葉は終盤だったが、真っ赤なモミジが残っていた。
最後は涸れ沢を登り詰めて、大峠までもう少し。
このあたりは踏み跡が不明瞭になり、ルートがわかりにくい部分もあった。
なお、地形図に記載されている道ではなく、ひとつ東側の沢を登ることになる。
9:15 大峠
ツルベ谷出合から1時間掛かって大峠に到着。
ここで、綿向山から雨乞岳に連なる稜線に乗っかる。
大峠からは稜線に沿って東に向かう。
すぐに急登(本日一番)が始まるが、ここのルートもわかりづらかった。
右側の崖を避けるように広い斜面を登って行ったが、落ち葉でズルズル滑って苦労した。
崖に沿うように道が続いていたようで、そちらが正解だった。
急登をクリアするとシャクナゲのトンネルに。
大峠からはずっと展望の利かない道だったが、不意にルート上に大岩がある。
それに登ると目的地の雨乞岳を望むことができた。
まだまだ遠いが、待望の稜線までもう少し。
反対の西側を見ると、崩落の目立つ尖ったピークがあり、これはイハイガ岳。
その先に続いているのは以前、登った時、霧氷が美しかった綿向山。
再びシャクナゲの尾根道を進む。
かなり枝がうるさく、しゃがんで歩かなくてはならない箇所もあった。
そういうところでは方向を失いやすいので、慎重にルートを選んで行く。
シャクナゲ帯を抜けると広々とした広葉樹の林に出る。
明るい雰囲気で、これまで緊張感があったためか、なんだかホッとする場所だった。
踏み跡が多数あるが、広い尾根の真ん中を辿って行けば大丈夫。
ところどころで林が切れて、視線の先に楽しみにしていた稜線が見えてきた。
樹林帯を抜けて、いよいよ稜線歩きがスタートする。
ただし、吹きさらしで風がめちゃくちゃ強い。
思いっきり西高東低、冬型の気圧配置なので、予想はしていたが。
体感温度はかなり低く、慌ててアウターを着込んで再出発。
なだらかで牧歌的な斜面と、その奥に雨乞岳。
頭上では真っ青な空の下、雲がすごい速さで流れている。
稜線からはの眺望は抜群であった。
一番目立つのは、鎌ヶ岳から連なる鈴鹿の主稜線。
出発地の甲津畑方面。紅葉しているフジキリ谷を望んで。
ずっと奥には薄らと琵琶湖の姿も見えた。
断続的に突風が稜線を吹き抜けるが、身の危険を感じるほどではない。
雨乞岳を目指して再スタート。
清水頭(しょうずがしら)を通過。
ここからがこの稜線のハイライトである。
小さなアップダウンを越えて、丸い山容の雨乞岳を目指す。
広々とした稜線に青空。開放的すぎる風景が堪らない。
ただ、ひとつ気になることがある。
事前にネットで見たこのあたり写真では、もっと笹が生い茂っていたはず。
以前は膝下ぐらいまで笹があったようだが、今は枯れてしまったのか、更地に近い状態。
調べてみると、鈴鹿では各所で笹枯れが進んでいるようだ。
笹は地下茎で繋がっているので、育つのも枯れるのも同時期に広範囲で起こるらしい。
今は笹の減退期のようで、その周期は50年とか数十年の単位といわれる。
そういう長い自然の理の中で、山の風景がいつだって同じでなくても当然なのかも。
もう少し進んでいくと青々とした笹も現れはじめて、歩いてみたいと思っていた風景に。
笹原の小径を足取り軽く。
気持ちのいい青空を見上げて登って行く。
歩いてきた稜線を振り返って。
あと一週間早かったら、笹原と紅葉のコントラストが良かっただろうから、少し惜しい気分。
雨乞岳手前の小ピークである南雨乞岳に向かって、徐々に登りがキツくなっていく。
笹は少し深くなって来たが、このあたりはまだ道がはっきりしていて問題なし。
南雨乞岳の直下は、いよいよ笹が濃くなり、掻き分けながら急斜面を登る。
斜面を登り切って、南雨乞岳へは右側に少し寄り道する形になる。
見晴らしのピークからは、正面に御在所岳と鎌ヶ岳が大きく広がっている。
ここでランチとも考えたが、そこそこに風が強く断念。
雨乞岳と東雨乞岳を繋ぐなだらかな稜線。
ここから先は、遠目から見ても笹が深いことがわかった。
ここからが、この稜線の本当の姿? 写真では気持ちよさそうだけど…
いつしか完全に笹の海である。
このあたりは笹を掻き分けて進むのが、まだ楽しい状態。
しかし、雨乞岳の山頂直下は背丈に迫る笹藪に。
慎重にルートを選んでいたつもりだが、最後は完全にロスト。
掻き分けやすい部分があるので、それを探って進むが、あちこちで枝分かれして、どれが正解なのか全然、分からない。
でもまあ、山頂は間近なので、不安になることはない。
11:50 雨乞岳・山頂
結局、最後は半ば強引に笹藪を抜けて、不意に山頂に飛び出した。
朽ちかけた簡素な山頂標が佇む山頂は、少し寂しげだったけど、嫌いではない雰囲気。
個人的には、これで鈴鹿セブンマウンテンを全制覇である。
山頂の片隅に「大峠はここから」の標識があるが、出てきたのはここではない(苦笑)
東雨乞岳に続くなだらかな稜線。こちら側が武平峠から登って来るメインルートになる。
対照的な山容の御在所岳と鎌ヶ岳。なかなかのパノラマである。
その間の背後には伊勢湾と四日市のコンビナートも広がっている。
鎌ヶ岳
それほど広くない山頂では数名が昼休憩をしていたが、ここも風があるので、適当な場所を探しながら、もう少し進むことにする。
下山はまず杉峠に向かうが、標識は見当たらなかった。踏み跡を辿る。
山頂の裏手には、ひっそりと小さな池があった。
名前の由来の通り、ここで雨乞いの儀礼が行われていたらしい。
笹原を下って行くと、正面に鈴鹿北部の山並み。
竜ヶ岳、藤原岳、御池岳と一望できた。さらに奥には伊吹山も。
ちなみに、すぐ向こうの平たい山は鈴鹿の秘境と呼ばれるイブネ、クラシである。
いかにも眺望良さそうな東雨乞岳のピーク。
斜面の木々が紅葉していたら、いかほどの美しさだったことだろうか。
国見岳と釈迦ヶ岳
杉峠への下りは湿気を帯びた滑りやすい急斜面だった。
何度か転びそうになりながら、少々難儀して下って行く。
結局、杉峠まで下ってランチ。途中に眺望がいい場所もあったが先客あり。
本日のメニューはインスタントスープを使ったスンドゥブ鍋。
トック(切り餅)を入れたのは大正解だった。
山友はホットサンドメーカーを持ってきて、色々と挟んでいた。
少しお裾分けしてもらったが、これがめちゃくちゃが美味だった。
腹が満たされたら、杉峠から千種街道で甲津畑に下る。
このあたりは晩秋の雰囲気で紅葉は終盤だが、陽だまりがいい感じ。
フカフカの落ち葉道が心地よい。
ちょっと頼りなさげな吊り橋で沢を渡る。
標高が下がってくると、紅葉がいい盛りに。
蓮如上人旧跡近くの大シデ。
この街道沿いには他にも巨木がいくつもあった。
晩秋の千種街道は最高の散歩道である。
これまでノーマークだった鈴鹿の紅葉もなかなか侮れない。
ツルベ谷出合で今朝来た道に合流し、ゴールまでラストスパート。
紅葉はこのあたりが最盛期だった。
西日が当たって柔らかい色合いになった紅葉。
こんな風景の中なら、長い林道歩きもそれほど苦にはならない。
眩しいほどの逆光の中で輝く紅葉の道。
杉峠から2時間と少しで下山が完了。紅葉のおかげか、それほど長く歩いた印象はない。
笹原の稜線と紅葉を存分に堪能できた、晩秋の鈴鹿登山であった。
マイナールートで人も少なく、静かな山歩きをしたい人にぜひお勧めしたい。
鈴鹿はなかなか奥深い。
今度はイブネ、クラシなんかも歩いてみたいと思っている。
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