天候 : 曇り
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ここ数年、スケジュールやら天候やらで、まともに紅葉登山をできていなかったが、久々に巡ってきたチャンス。
当初の予定は白山。大白川から平瀬道で登る計画だった。
しかし、残念ながら天気が良くないので、代案の籾糠山へ変更とした。
籾糠山ってどこ? って感じで、それほど知名度は高くないだろう。
白川郷の東側に位置し、春山残雪期の登山で有名な猿ヶ馬場山の隣にある。
代替の候補を探していた数日前、ブナの森の素晴らしい紅葉が目に留まり、ここに決めた。
ちなみに、籾糠山は "もみぬか" 山 と読む。意外に難読では?
山へ向かう車中で「もみがら」「こめぬか」なんて仲間でふざけているうちに、本当の名前が分からなくなってくるという…
今でも、これは若干のネタ気味になっている。
スタートは白川郷から狭い峠道を20分ほど登った天生峠となる。
駐車場は広く、トイレ(合掌造りを意識した三角の建物)もしっかり。
紅葉は天生峠の時点ですでに盛りとなっていた。
ということは、上の方はすでに落葉しているのでは?と心配になる。
しかし、頂上まで標高差は500mないぐらいなので、結果的に終始、見事な紅葉を楽しめた。
スタート地点の案内板。
まずは天生湿原に向かい、そこから登山ルートは3つに分かれる。
行きは真ん中のカラ谷を登り、帰りは木平湿原経由でブナの森を楽しむ予定である。
7:30 天生峠(出発)
雨は落ちていないが、うっすらとガスが掛かる天気。
天生湿原の一帯は天生県立自然公園となっており、入山には環境整備協力金が必要となる。
そのおかげもあり、登山道はどこも完璧な整備状況だった。
車道を上がったところで協力金¥500を支払って、スタートを切る。
いきなり紅葉のトンネルの中を進む。
看板にも書いてあるが、本当に熊が出そうな雰囲気で、しっかり熊鈴を鳴らしながら歩く。
まずは天生湿原を目指して、歩きやすい階段を登って行く。
いやはや、最初から本当に素晴らしすぎる紅葉である。
こんなにもお手軽に紅葉を楽しめる天生湿原、登山は…という人に、ぜひお勧めしたい。
欲をいえば晴れて欲しかったけど、曇り空の下のしっとりとした色付きも悪くない。
小さな谷を見渡すと、幾重にも色が折り重なって、まさに錦色である。
ガスが絡んでいるのも、これはこれで、むしろいい雰囲気ではないか。
落ち葉を踏みしめて天生湿原へ向かう。
ゆっくり30分ちょっと歩けば、天生湿原の北端に到達する。
湿原を周回する木道は狭いため、時計回りの一方通行になっていた。
湿原の縁を沿うように、濃密な秋色の中を進んでいく。
湿原に飛び出ると、紅葉の木々が周囲を取り囲んでいた。
湿原の中央には「匠屋敷」と呼ばれる小島があり、「飛騨匠堂」というお社が祀られている。
飛騨の匠のルーツとされる「鞍作鳥」の伝説と関係があるようだ。
この伝説は籾糠山の名の由来とも関係があるので、少し説明しておきたい。
鞍作鳥は止利仏師とも呼ばれる飛鳥時代の仏師(仏像を作る彫刻家)で、代表作には法隆寺の釈迦三尊像などがある。
その鞍作鳥の出生地が天生とされている。
長くて折れ曲がり、尖ったような鼻だったことから「鳥」という名前が付けられたというが、その容姿から推察するに、大陸からの渡来人の子孫であったようだ。
収穫した稲を精米する時、風を起こして玄米と籾や糠を分けていた。
その籾糠が円錐状にうず高く積もって山となった、というのが籾糠山の由来である。
天生湿原には鳥の住居、田んぼがあったとされる。
ちなみに近くには「人形山」という山もあり、ここに木の人形を埋葬したと伝えられている。
さて、紅葉ハイクを続けよう。
タイミングとしては、まさに最高の時に来ることができたようだ。
足元に目をやれば、苔の上に降り積もったモミジ。
湿原の奥に位置する籾糠山は白く漂うガスに隠れている…。
でも、見るからに紅葉の状態は完璧で、あの中を歩くのが楽しみになってくる。
真っ赤な秋。
湿原に沿って歩いていく。ブナの色合いが、言葉にできないほど美しすぎる。
周回路の分岐まで来ると、湿原を離れ、再び森の中へ。
ここには動物による食害対策の柵があるので、忘れずに閉めるべし。
少し進んで、カラ谷分岐にはカツラの巨木が立っていた。
根元には人が入れるほどの大きな室がある。
このあたりは巨木、古木がたくさんあった。
この先はカラ谷を詰めて籾糠山頂を目指すのだが、分岐の標識が何やら大変なことに。
まさか、熊の仕業なんだろうか…。
こちらもいい色付きだ。
ブナって新緑の色も好きだけど、やっぱり紅葉もいい。
なんだか温かさを感じることができるような色合いが堪らない。
黄葉の衣を纏って。
ルート上には、お手製の熊よけがあちこちに設置されていた。これをガンガン叩いて進む。
静かな森にかなり大きな音が響き渡り、かなり効果ありそう。
熊さん、お邪魔します。
沢沿いに登って行くと「カツラ門」が不意に現れる。
5本のカツラの古木が立ち並ぶ姿は、なかなか壮観である。
ただ、以前より樹勢が衰えてきているようで、周囲は柵で保護されていた。
前は木々の間をまさに門の如くルートが通っていたようだが。
奥までずっと深い紅葉の森が続いている。
苔むした岩に落ち葉降る沢の流れ。
そして、水のせせらぎはやっぱり気持ちがいい。
3本あるルートのうち、谷を登っていくカラ谷登山道だけの特権だろう。
木平探勝路で登ってくるルートと出合う木平分岐からは尾根道になる。
標高が上がってくると落葉も目立ち、このあたりは晩秋の雰囲気だった。
この区間は距離は短いものの、一気に高度を稼ぐ感じで、今回の山行で初めて息が上がった。
ブナ探勝路と合流したら、山頂まであとひと登り。
ここまでずっと広葉樹の森だったが、植生が変わって針葉樹も混ざるようになる。
最後の登りは階段が続いて、なかなか骨の折れる急斜面である。
10:50 籾糠山・山頂
そして、山頂に到着。
ここの標識もやられているけど…。
山頂は木々に囲まれているので、大展望というわけではない。
向き合って立つ平たい山が猿ヶ馬場山。ぜひとも残雪期に登ってみたい。
ちなみに、白山は天気が良くてもこの山に阻まれて見えないらしい。
東から北側は晴れていれば北アルプスを見渡すことができるようだが、今回は残念な結果。
わずかに近くの山並みが見えるのみだった。
山頂はかなり狭いので、ここで昼食とするのは気が引ける。早々に下ってしまう。
途中にあったベンチでランチ休憩。
あたりにたくさんあった何かの赤い実が可愛らしい。
木平分岐まで来た道を戻り、下山は木平湿原経由の探勝路を歩く。
初めは少しだけ登り返しがあった。
どこか芸術的なツタウルシの紅葉。
道の脇にクマザサが出てきたら木平湿原は近い。
木道が現れて視界が開けると木平湿原に到着である。
規模はとても小さいけど、雰囲気のいい場所だった。
湿原の中には小島が点在して浮かんでいる。
紅葉しているように見えるのは、苔だろうか?
優しい色合いのツタウルシ。
木平湿原を過ぎてしばらく緩やかな下りが続いた後、一気にブナの森へ急降下が始まる。
ここからが、今回の山行のハイライトだった。
見上げれば、向こう側が透けて見えそうなモミジ。
ちょっと感動してしまうぐらいの紅葉の中を行く。
このあたりが一番、紅葉の密度が高かった場所。
錦の秋色の波が押し寄せてくるかのようである。
青空を背景に写真を撮りたい気持ちもあったが、曇り空の下の温かみがあって、より優しい色合いの紅葉もいい。
一枚ごとに少しずつ異なる色の葉が重なって、モザイク画みたいだった。
仲間には悪いけど、一人でこの紅葉を噛みしめたくなって、少し距離を置かせてもらう。
体を通して心に染み入って来るような、ブナ森の心地いい息吹。
秋色を纏ったツタウルシは画になるので、何度も撮ってしまう。
カラ谷分岐で他のルートと合流して、天生湿原に戻る。
一方通行の帰路は、木道の続く西回りルートを歩くことになる。
ここもまた、紅葉が色濃く、カメラを構えるために何度も立ち止まってしまう。
小さな命にも真っ赤な秋が訪れる。
こんなにも素晴らしい紅葉なのに、人はほとんどおらず静かな天生湿原。
天気が良ければもっとたくさんの観光客が訪れるのかも知れないが、あまり有名になりすぎず、このままひっそりとここにあって欲しいと思ってしまう。
たくさんの秋色が折り重なって作る風景。
湿原を抜けたら、あとは天生峠まで緩やかに下るだけ。
落ち葉を踏みしめながら、秋の小道を散歩気分で帰る。
この場所からの風景は朝も良かったけど、より光が廻っていっそう鮮やかに見える。
紅葉で埋め尽くされた風景に、ただただ見惚れる。
もう少しで終わってしまうことが、なんだか惜しく感じてしまう。
いつまでも、この空気感に包まれていたい気持ち。
素晴らしすぎる紅葉の余韻に浸りながら、天生峠の駐車場に帰還。
終始、曇り空であったが、雨には降られずに戻ってくることができた。
白川郷に下る途中、行きに気になっていた天生中滝に立ち寄る。
もう少しして、紅葉がもっと進んだら、いい撮影スポットになりそう。
白川郷を観光して行こうかと思ったが、駐車場が満車だったので今回はスルー。
大白川温泉の「しらみずの湯」で汗を流して帰った。
いつの間にか青空が広がっており、よくある下山後に晴れるパターンに。
最後に今回の山旅の思い出を。
静かな湿原を取り囲む錦色のた木々、どこまでも秋色が続いているブナの森。
素直に感動してしまう紅葉だった。
登山としてはお気軽すぎだったけど、間違いなく記憶に残る山行になりそうである。