稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

三本槍岳 - 静かな裏那須の秋、紅葉に佇む鏡ヶ沼を訪ねて

※ この写真の三角形のピークは三本槍岳ではなく、大峠の稜線から見た旭岳。

 

三本槍岳:山登りの記録

 日程:2012. 10. 14(日帰り)

 天候:晴れ 時々 曇り

 

コースタイム

 大峠林道 駐車スペース 6:50 → 大峠 7:40 → 三本槍岳 9:30

 → 鏡ヶ沼分岐 10:15 - 10:25 → 鏡ヶ沼 10:40 → 大峠林道 駐車スペース 11:40

 登山時間:4時間50分

Introduction:鮮やかな紅葉とひっそりとある鏡ヶ沼

山を染める紅葉を求めて那須へ。

 

那須岳といえば、ロープウェイが架かり、噴気を上げて荒涼とした茶臼岳が真っ先に思い浮かぶだろう。

定義的には茶臼岳だけでなく、那須五山と呼ばれる峰々の総称らしい。

その中のひとつが、三本槍岳である。

 

三本槍岳とは随分と勇ましい名前であるが、実際の山容は丸くたおやか。

茶臼岳や朝日岳の荒々しい風景とは対照的で、三本槍岳は笹原に灌木が点在する自然豊かな山である。

その中腹には、どこか神秘的な鏡ヶ沼があり、それも楽しみのひとつである。

 

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実は、この山行の前日、北温泉・中の大倉尾根から三本槍岳を目指していたのだが…

遠ざかって行くと思われた低気圧が居座り、那須名物の強風に行く手を阻まれ、途中撤退

 

それでも、ガスの切れ間からきれいに色づいた尾根を見てしまったものだから、余計に “晴れていれば、どれだけ素晴らしい紅葉だったんだろう” という思いが捨てきれず、翌日にあらためて登ることになった次第。

目指すは同じ三本槍岳だが、まったく同じ行程は…

ということで、次の機会に歩いてみたいと思っていた大峠を経由するルートを行くことに。

福島県の下郷からスタートして、“裏那須 を巡って三本槍岳に向かう。

 

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登山口となるのは、下郷から伸びる大峠林道の終点。

観音沼森林公園から先はなかなか酷い未舗装路となり、神経を使う。

終点の駐車場に着いたのが6時半。

10台ほど停まっていたが、紅葉ハイシーズン(日曜)と考えれば、それだけ、ともいえる。

那須那須高原側)は、前日の悪天候でもかなりの車の数だったので、天気の回復した今日は、すごいことになっていると思われる。

こちらは静かな山歩きが期待できそうだ。

旧街道の峠を越えて、三本槍岳を目指す

6:50 大峠林道終点(登山開始)

歩きはじめは会津中街道という古道を行く。

江戸時代に拓かれた、板室から三斗小屋温泉大峠を経て会津に抜ける街道である。

石畳が残っており、歴史を感じることができる旧街道では少しずつ紅葉が始まっていた。

 


大峠までは森の中を進むが、ところどころで視界が開ける。

すると流石山の尾根が鮮やかに色付いて見えた。

 


朝の雑木林に、柔らかい秋色の光が降り注ぐ。

 

 

7:40 大峠

1時間弱ほど歩くと不意に森を抜けて、笹で覆われた大峠に到着する。

道の傍らには、かつての街道の往来を見守ってきたお地蔵様が佇んでいた。

 


大峠からは三本槍岳に続く稜線を歩く。

少し登って振り返えると、大峠から反対側の斜面に気持ちの良い笹原が広がっていた。

木々の色づきはまずまず。

下郷方面を望む。

早朝は雲海が広がっていたけど、だんだん雲が切れてきたようだ。

奥に霞んで見えているのは飯豊連峰だろうか?(写真は切れているが)

 


三斗小屋温泉方面を見下ろしたところ。

深い森が続いている。

紅葉の本番はこれからのようで、ピークの時はすごいことになりそう。

 

紅葉盛りの稜線をのんびりと

そして、三本槍岳への稜線。

紅葉はまさに見頃である。

逆光で写真はいまいち冴えないが、こんな中を歩けるなんて幸せである。

上空を渦巻く秋雲もいい。

谷筋を覗き込めば、錦色の森が広がっている。

 

 

細かくアップダウンを繰り返しながら三本槍岳に向かう快適な稜線歩き。

オレンジ色の紅葉と熊笹のバランスがいい感じ。

 

 

そして、つい振り返ってしまう理由が流石山の存在感なのである。

その後ろに続く大倉山も見えてきた。

ここの登りも気持ちよさそうで、いつか歩いてみたくなった。

 


ドウダンツツジの紅葉の中を抜けて、小ピークへ。

 


前も後ろも広い稜線が気持ち良くって、振り返ってばかりでなかなか進めない。

少し雲が広がっているが、まさに秋の空といった感じ。

 

 

流石山の斜面を望遠で見下ろすと、パッチワークのような紅葉が広がってた。

ひとつひとつ色が微妙に異なって、なんとも鮮やか。

これだけでひとつの芸術作品になりそう。

稜線から見えるすぐ近くの紅葉はこんな感じ。

こちらも色で溢れている。

 


登ってきた尾根を振り返る。

流石山、大倉山から弧を描くように回り込こんで三倉山に続く稜線も見えてきた。

ずっと歩いて行きたくなるような稜線。

北側の眺望も開けてきた。

目立つ三角錐の形をしたのは旭岳、その手前にあるのが須立山となる。

 


その須立山の麓にあるのが鏡ヶ沼

眼下に笹原と紅葉に囲まれた小さな沼が見える。

もともとこのルートを歩いてみたいと思ったきっかけが、この鏡ヶ沼の存在だった。

 


早くあの沼の畔に立ってみたくなる。

でも、その前に、ここまで来たのだから、ちゃんと三本槍岳の山頂を踏んでおかなくちゃ。

 

9:30 三本槍岳

ここまで数人にしか会わなかったのに、三本槍岳の山頂はやはり表那須から登って来た人でいっぱいだった。

ロープウェイとか峰の茶屋あたりは、おそらくすごく混んでいることだろう。

ちなみに、標高1917mは那須連山の最高峰。

眺めはなかなかのものである。

まず西側は、手前に登って来た尾根と大峠を挟んで、その向こうに流石山、大倉山、三倉山の稜線。

 


北側は、三本槍という名前に反して、たおやかなピークが広がっている。

後ろに見えているのは飯豊連峰。

 

 

茶臼岳方面は思いっきり逆光でまともな写真がなかったので載せないが、ひと通りの方角の写真を撮り終わったら、長居せずに鏡ヶ沼に向かうことにする。

もと来た道を戻り、旭岳方面に分岐して、急な斜面を下って行く。

立山の斜面はきれいに紅葉していた。

 

紅葉とともに、そこに佇む鏡ヶ沼

いよいよ近づいてきた。

静寂な雰囲気を感じる鏡ヶ沼を上から眺めていると、なんだか心が吸い込まれそうな不思議な気持ちになる。

 


ただ、ここからの下りがものすごく大変だった…。

ロープや笹を掴まないと滑り落ちるような道で少々難儀した。

 

10:40 鏡ヶ沼
そうして降り立った鏡ヶ沼は、やはりとても静かな空間であった。

一言でいえば神秘的。でも、それだけでは語れない場所。

数人の登山者とカメラマンがいるだけ。

見上げると須立山の紅葉と秋の空。

この沼の空気感、とても心地よく、穏やかな気持ちになっていく。

 


時々、風が沼の水面を渡って、静寂を破るようにさざ波が立つ。

一枚一枚、静かにその風景を切り取るように、でも、たくさんシャッターを切った。

 


こういう場所、こういう時間をさがして、これからも山を歩いていきたいな、と思う。

 

 

鏡ヶ沼からは笹原、カラマツ林の道を緩く下って、大峠林道に戻った。

 

鏡ヶ沼は、おすすめの場所だけど、あまり知られたくない場所、なんて都合のいいことを思ってみたり。

きっと紅葉そのものは表那須の方がすごいだろう。

けれど、裏那須には、静かに心に語り掛けて来るような、そんな秋がある。

それを感じに、ぜひ一度、歩いてみてほしい。

 

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<参考>

・ ヤマレコ:山行記録(登山地図など)

 

大峠林道の情報(下郷町HP):台風災害による道路崩落で通行止めが発生していたようだが、2022年現在は復旧している。ただし、林道終点までは入れず、500mほど手前の鎧沢橋付近までの模様。