稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

鞍掛山&日向山 - クモイコザクラと甲斐駒の大展望を求めて (2016.5.21)

 

ルート : 矢立石登山口 → 錦滝 → 鞍掛山 → 日向山 → 矢立石登山口
天候 : 晴れ


詳細な山行記録は … ヤマレコ

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5月は気持ちのいい新緑ハイクの季節。
今年は以前から目を付けていた山梨・白州の鞍掛山に登った。

この鞍掛山、知名度はあまり高くないかも知れない。
山頂にビーチのような白い砂地が広がる日向山は、容易に思い浮かぶのではないだろうか?
鞍掛山はその日向山から甲斐駒へ続く日向八丁尾根の途中(厳密には尾根から外れる)にある。
位置的には南アルプスの前衛ということができるだろう。

僕がこの山を目指す理由はふたつ。

ひとつが甲斐駒の大展望である。
春に中央道を走らせると、残雪をまとった甲斐駒ヶ岳の勇姿にいつも目が釘付けになるのだが、
今回はより間近でその迫力を楽しむことになる。

そしてもうひとつが “クモイコザクラ”。
その花の可愛らしさは後ほどご覧いただくとして、いつだったか写真を見て、一目惚れに近い感情。
だから、「会いに行く」という感覚なのである。

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6時、この時期だとすっかり日は昇り、五月晴れの空に心躍りながら登山口を目指す。
まずは国道20号の道の駅・はくしゅうが目印で、そこから尾白川渓谷を目指す。
道なりに行けば登山口に至る林道にそのまま入るのだが、ちょっと寄り道をして行く。

尾白の森名水公園に向かう直線道路(べるが通り)を走りたかったのがその理由。
広々とした田園風景の中、南アルプスの懐へ真っ直ぐに伸びる道が気持ちいい。
少し隠れているが甲斐駒やこれから登る鞍掛山や日向山がよく見えた。


尾白川林道に進み、舗装が切れたところが矢立石登山口。
駐車スペースは15台分ぐらいであまり多くはない。この日は6時で7台目だったかな?
ただ、林道の路肩に駐車スペースは点在し、帰りにはかなり下の方まで車が停まっていた。

この登山口から日向山まで快適なハイキングコースが続いているが(下山に利用)、
今回は錦滝経由で鞍掛山に向かうので、ここはスルーして林道へ。


すぐに車両通行止めのゲートがあって、脇を抜けて通過。
この先、路面が荒れているけど、登山道と考えれば特に問題はない。
ただ、あちこちに落石が転がっているので注意したいところ。


時々、木々が切れて、早速、甲斐駒を望むことができた。


林道沿いにはヤマツツジやウツギ(?)がたくさん咲いていた。

 


新緑の映える青空をバックに甲斐駒と長大な黒戸尾根。
甲斐駒に登る時は黒戸尾根からと心に決めているのだが、それはいつになることか。
花や眺望に助けられ、飽きることなく林道を進むことができた。


歩きはじめて40分で錦滝に到着。
錦滝は予想していたのよりもずっと立派な滝だった。
水量は多くないけど、落差が大きくて、近づくとなかなかの迫力。


滝の下には小さな虹が掛かっていた。


滝の上部は眩い新緑と清い流れのコントラスト。 


滝の裏側に隠れるように咲いている花があった。
どうやらユキワリソウ(雪割草)のようだ。


滝の横に回り込むことができるので(ただし、足元注意)、
ユキワリソウに近づいてみるけど、水しぶきがすごくてあと一歩届かない…


でも、滝から少し離れた沢にも少しだけ咲いていたので、接写することができた。
淡い紫色と花の形が可愛らしくて、お目当てのクモイコザクラに負けず劣らず。


錦滝でだいぶゆっくりしてしまったが、ここから日向山へ急な登りが始まる。
この区間は下り禁止になっているので注意を。
看板によると、「台風被害で足元が大変悪く危険」というのが理由のようだ。
ただ、危険箇所は特になかったように思うが…


ここはこのルートの中でも、特に印象的な場所。
頭上にぽっかりと空いた穴を目指し、急な階段を登って新緑の世界へ。
ちょっと不思議な感覚だった。


新緑色が降り注ぐ登山道をゆっくり進む。
確かに急登が続くけど、お助けのロープはしっかりあるし、
何より新緑がきれいで、気持ちのいいルートだった。


急坂を登り終えると、ツガっぽい木々も出てきて、少し雰囲気が変わった。
苔むした森と広葉樹の新緑が混ざった、見慣れない感じがいい。


ミツバツツジも色鮮やか。これはいい時期に来れたみたい。 


ルートが沢地形に入っていくと、風景が一変。
地面が白砂に覆われた斜面が現れた。


蟻地獄のように崩れる砂の斜面を登り切ると、花崗岩の岩山が目の前に。
これが日向山を有名にしている風景で、花崗岩が崩れてできた白砂が光に反射して眩しいぐらい。
山頂は帰りによる予定で、反対側の日向八丁尾根に進み、鞍掛山を目指す。


日向八丁尾根の前半は、岩を越えたり巻いたりして行く。
少し痩せている箇所や、踏み跡が錯綜していて迷いそうな場所もあるので、少し注意が必要かも。
でも雰囲気は好き。

 
日向八丁尾根はミツバツツジがまさに盛り。たくさん咲いていた。
見上げると若葉色と赤紫色のシャワー!


白いヤマツツジもあって紅白のコラボ。


ルートは岩場からクマザサの茂る森に変わっていく。


基本的には森の中を進むので眺望はない。
しかし、数箇所、開けるところがあって、そこでは鳳凰三山観音岳、尖ったオベリスクが見えた。


鞍掛山との分岐にあたる駒岩が近づくと道は緩やかになって、快適なトレイル。


このあたりは単調なので距離が長く感じて、駒岩はまだか~って感じで淡々と歩いていたら、
突然、眺望が開けて、この景色が目に飛び込んできた。
甲斐駒、カッコ良過ぎでしょ。
手前の左に見えるピークが目的地の鞍掛山のようだ。


日向八丁尾根に入ってから1時間半で鞍掛山への分岐の駒岩に到着。
“0.3h”って18分のこと?


鞍掛山へは一回、100メートルくらい下って、登り返さなければいけない…
ここを下った鞍部に、お目当てのクモイコザクラが咲いているはずで、気持ちがはやる。


それなのに、なかなか姿を現さないから、今年はダメなのかとちょっと不安になってくる。
そんな時、進む先にある大岩に薄紫色が点々と付いているのが見えてきた。

無事に見つけることができたクモイコザクラ(雲居小桜)。
岩場にへばり付くように咲いていた。


ちゃんと咲いてくれていて良かった。
その小ささ、控えめな色で寄り添って咲く様がなんとも可愛らしい。


咲いているのはこの岩だけだった。ここがお気に入りなのだろうか?
ルート上にあるので、咲いていれば見過ごすことはないと思う。


ここはピストンなので、帰りにまた愛でることにして先に進む。
クモイコザクラの咲く大岩を過ぎると、道は少し険しくなる。ちょっと嫌らしいトラバースをクリア。


山頂の直下、最後はなかりの急登で参ったけど、鞍掛山に到着。
ここはまったく眺望がないが、5分ぐらい先にある展望台が本当の目的地。


先行者とすれ違うと、素晴らしい眺めだと満面の笑みで教えてくれて、いっそう期待が高まる。
そして、今は誰も居ないとのこと。 

10:30 鞍掛山・展望台
樹林帯を抜けて、ふと視界が開けたここが展望台。


そして、どーんと目に飛び込んで来る甲斐駒に大感激!
花崗岩のテラスから眺める甲斐駒の迫力たるや、圧倒されるばかり。


かなり風化しているが石像や祠が祭ってあり、古くから甲斐駒が信仰されていたことがわかる。
調べてみると、その昔、甲斐駒は女人禁制の山であったそうで、
登ることができない女性の修験者が目指した遥拝所がこの場所であるようだ。


遮るものがまったくない甲斐駒の堂々たる山容を満喫する。
この景色をひとり占めできる幸せを噛みしめる。


さっきまで歩いていた日向八丁尾根は、こういう感じで甲斐駒まで続いている。
近年、黒戸尾根の七丈小屋の管理人さんの尽力で登山道の整備が進められ、
登山者も徐々に増えているようだが、かなりハードなコースだろう。
それでも、中には日帰りで甲斐駒まで行って黒戸尾根で下ってくる強者もいるとか…


カラマツの木陰、甲斐駒を眺める特等席でランチタイムにする。


簡単にいつも同じカップ麺とおにぎりだけど、今回は特別に思えてしまう。 


重厚感のある甲斐駒・山頂部のアップ。
今年は冬の間の雪が少なかったから残雪の量も少ないようだけど、
黒々とした山塊とのコントラストがいい具合に画を引き立ててくれる。


カラマツの新緑とのコラボもいい。
黄金色に輝く黄葉の時期も絶対に素晴らしいだろうな。


たっぷり甲斐駒を堪能して、少し名残惜しいが下山に取り掛かる。
展望台の一角にはイワカガミが咲いていた。今回の道中でここだけだったと記憶。


鞍部まで戻って、クモイコザクラにも別れを告げる。


こっちはミヤマカタバミかな? 


日向八丁尾根を戻る途中、これから向かう日向山を見下ろすことができた。
周りには木々が茂っているから、あの一角だけ白砂で覆われているのは、やっぱり特殊な場所だ。


錦滝との分岐まで戻って、ここから白砂の急斜面を登って日向山の山頂に向かう。


予想できたことだが、足元が崩れて登りづらい…。結構な角度なので、なかなか骨が折れる。
日差しの照り返しも強くて、ここだけで汗だくになってしまった。


息を切らして斜面を登り切ると山頂は目の前。
やっぱり普通の山とは異質な風景が広がっている。


日向山に到着。最高点(水準点)はここではないようだ。


まさにここは山上のビーチ。
本当のビーチのように寝そべっている人もいた。
ちなみにこの方向に八ヶ岳があるはずだけど、今回は靄ってしまい見えなかった。


山頂のまわりには何故かミヤマツチグリの大群落があった。


これはシロバナヘビイチゴかな?


矢立石への下山路はよく整備されていて、快適で高速道路みたい。
疲れた足にはありがたい限り。


清々しいカラマツの新緑を浴びながらの下山路。 


日向山から1時間で矢立石登山口に下山できた。
目的だった甲斐駒の大展望とクモイコザクラを満喫でき、
この他にも、滝や日向山のビーチなど、イベント盛りだくさんの山行で、お腹一杯で感じ。

鞍掛山はそれほどメジャーではないのかも知れないけど、
その分、静かな山歩きは約束されているので、ぜひ一度、歩いてみて欲しいコース。
自分も季節を変えて、歩いてみたいと思う。