稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

越後駒ヶ岳 - 試練の春山からもらったご褒美 (Day 1 ; 2015.5.1)

 

ルート :
(1日目) 銀山平 → 道行山 → 越後駒ヶ岳 (駒の小屋 泊)
(2日目) 越後駒ヶ岳 → 銀山平 (ピストン)

天候 : 2日とも 晴れ (暑いぐらい)

 

詳細な山行記録は … ヤマレコ

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ゴールデンウィークの山行は残雪の山を楽しみたい。

候補に考えていたのは、至仏山尾瀬ヶ原仙丈ケ岳、そして、越後駒ヶ岳
今年は4月の下旬がやたらと暖かくて、どこの山も雪解けが例年よりも早そうだった。
尾瀬は木道の踏み抜きが厄介そうだったのでパス。
もらった自由時間が1泊だったので、仙丈ケ岳はちょっと駆け足になってしまうかな。

ということで、消去法気味に選んだのが越後駒だった。
山上の小屋で1泊、ゆっくりできるのもいい。

雪のない季節だと、小出と銀山平を結ぶ枝折峠がメインの登山口となるが、今はまだ冬季閉鎖中。
この時期だと麓にある駒の湯か銀山平から登るわけだが、その分、標高差は大きくなる。
今回は銀山平をスタートとした。

関越道を小出インターで降りて、長いトンネルの連続で有名な奥只見シルバーラインに向かう。
ちなみにシルバーラインは例年、GWぐらいまでは凍結の恐れがあるため、
夜間(18時~6時)通行止となっている。

タイミングを合わせて、6時少し過ぎにシルバーラインのゲートを通過。
長いトンネルに入る手前で越後駒ヶ岳を望むことができた。
あそこまで登ると思うと気持ちが昂ぶってくる。


シルバーラインは道マニア?には堪らない存在。
これでもかっていうほど長いトンネルが切れ間なく続き、
どこか怪しげなナトリウムランプのオレンジ色がそうさせるのか、
このまま異世界まで行ってしまうんじゃないかという感覚になる。


これまた珍しいトンネルの中の交差点を右に折れて、残雪が眩しい銀山平に出る。
国道を枝折峠方面に戻るように進んで、
普段は北ノ又川を渡る石抱橋付近の路肩に駐車できるようだが、今回は雪崩の恐れがあるためか
駐車禁止となっていた。
そのまま奥の銀山平温泉まで進んで森林公園の駐車場に車を停めた。

準備を整えて7:15に出発。まずは石抱橋まで500mぐらい戻ることになる。
とぼとぼ車道を歩いていると、1台の車が止まって声を掛けられた。
石抱橋のところにある遊漁所の管理人さんで、乗せて行ってくれるとのことで、これはラッキー。

吉幾三の ♪ 俺らこんな村いやだ~ (苦笑) が流れる車内で世間話。
去年まで管理人をされていたご友人から引き継がれて、今年からこの銀山平に来たらしい。
だから山のことも詳しくないらしく、どういうルートで登るのかなどを聞かれた。
僕と同じ藤沢に住んでいたことがあるとか妙に盛り上がって、
わずか5分ぐらいだけど、思いがけず楽しい時間となった。

さて、スタートとなる石抱橋から望む越後駒ヶ岳
まだまだたっぷり雪を残した姿にちょっと鳥肌が立つ。
目指す山頂はかなり遠く見え、気合を入れる。


遊漁所のおじさんに「気をつけて~」と見送られて、まだ冬季閉鎖中の国道を行く。
国道はプチ立山アルペンルート状態。


除雪区間はすぐに終わり、雪の壁を登って北ノ又川の河原の雪原に出る。
目指す越後駒とその左側に続くのが中ノ岳。


ここからは雪に埋もれた林道を歩く。
北ノ又川に沿って進み、柳沢から道行山に取り付く予定。
林道は河原から一段上の斜面に続いているので、所々にトラバースがあって少し注意が必要。

銀山平のペンション村の向こうに見えるのは荒沢岳
ノーマークだったが、今回の山行で随所で存在感を発揮してくれることになる。


骨投沢は立派なコンクリート製の橋で渡る。
その先、柳沢の直前がこんな感じのトラバースで嫌らしい感じだった。


石抱橋から1時間半ぐらい掛かって柳沢。地味に疲れた…
ここから道行山に向けて登りはじめる。
計画では地形図に記載されている夏道のルートを予定してたが、
ひとつ手前の尾根(1064ピークに至る尾根)にトレースが付いていたので、そちらを登るが… 


途中、雪が解けていて、藪漕ぎをする羽目に…
これは失敗したかな?


登って来た尾根を振り返って。うまくルートを取れば、藪を回避できそうな気もする。
でも、このルートはオススメしない。
下山では予定通りに夏道の付いている尾根を通ったが、そっちの方が断然、快適だった。


1064ピークに近づくとブナの新緑がきれいだが、登り傾斜はかなり急だった。
気温が高いせいで雪も緩く、登りづらい状態。


喘ぎながら、かなり登ってきた。
出発した銀山平がだいぶ小さくなって、その向こうに見えるのは日向倉山と末丈ヶ岳だろうか? 


1064ピークまでたどり着くと傾斜は緩やかになって、ほっと一息できた。
ここまで急登と藪漕ぎで一気に体力を消耗したが、ブナの清々しい新緑に癒される。


夏道ルートの尾根と合流して、しばらく行くと雪が崩壊していたが、
ここは夏道がしっかり出ているので大丈夫。


その夏道に入るとイワウチワがたくさん咲いていた。
これだけ雪が残っているのに、しっかりと春なんだなぁと実感。


アズマシャクナゲはほとんどが蕾だったが、ここだけきれいに咲いていた。


青空に映えるタムシバ
この後はまた雪の世界に戻るけど、春の花たちに元気づけられて、気分もリフレッシュ。


道行山の直前まで来ると、越後駒がどーんと視界に広がるようになる。
山頂から緩やかな弧を描くように続く稜線を目の前にして、最高の気分。
同時に、まだあれだけゴールが遠いことに涙目(苦笑)


振り返ると、雪原の向こうに荒沢岳が迫るように聳えていた。
あの荒沢岳から中ノ岳、越後駒と周回するルートもあるようだが、かなりハードに違いない。


10:55 道行山
道行山のピークに着いたのは11時ちょっと前。予定よりも少し遅れている。
越後駒まで日帰りで行く人もたくさんいるようだが、みんなすごいな。
僕はここまでですでにひと山、登り終えた気分。
小屋泊なので急ぐ必要もなく、ゆっくり休憩していく。

道行山からは銀山平方面の眺望も抜群で、ここまでゆっくり雪山を眺めに来るのもいいかも。


もう一回、気合を入れ直して越後駒を目指す。
今日はGWの中日。
ここまで誰にも会っていないが、小倉山の先の稜線にひとり先行しているのが見えた。


越後三山の最高峰、中ノ岳を横目に眺めながら。


小倉山に向かっては一旦下り…
この辺りからは越後駒が稜線の先。真正面に見える。
雪が重たくて少し歩きづらいけど、最高の瞬間。


小倉山へは雪が切れていて登れそうにないので、トラバースの踏み跡をたどる。
ここまでツボ足で来たけど、トラバースに備えてアイゼンを装着。

 
小倉山を過ぎるとクラック多発地帯。
このクラックは写真だと分かりにくいが、これを渡るのは危険だと感じた。
手前に夏道が出ていたので、ちょっと藪を漕いでそちらに合流。


雪に埋もれていて姿は見えないが、百草ノ池の辺りだと思う。
山頂は確かに近づいているんだけど、標高差はまだかなりある感じ。
前駒と言われる1763ピークへの登りがかなりエグイ…


かなりの急斜面で、目印の旗ごとに休み休み…
雪はどんどん緩くなり、体力が奪われていって、ペースが落ちるばかり。
もうほんと、一歩一歩、少しずつでも前に進むしかない。


荒沢岳の眺望に励まされながら。


振り返って、越後の山々にも励まされて。


前駒に到着した時はバテバテ…
この時点で、今日は小屋まででいいやという気分に。
最後の登りに備えて休憩してたら、ここで今日初めて人と会う。道行山で見えていた人かな?
日帰りの先行者さんにも励まされてラストスパート。


景色は素晴らしいけど、楽しむ余裕はなし…


ここが最後の登り。距離は短いが、永遠に登りが続くんじゃないかと思えてくる。
時刻は14時半を過ぎて、日が傾きはじめている。


急斜面の先に見えてきたのは小屋の避雷針?
あぁ、長かった試練のような時間がやっと終わる。


15:00 駒の小屋
そして15時。銀山平から7時間半掛かって山頂直下の駒の小屋に到着した。
正直、こんなにシンドイ山だとは思いなかったので、いつもよりも余計に確かな達成感。


へたり込むようにザックを降ろして、呼吸を整えた後、歩いてきた稜線を振り返る。
残雪のゼブラ模様が美しい。
今日は本当によく頑張ったよ、自分。


しばし余韻に浸ってから小屋の中へ。
この駒の小屋は避難小屋であるが、夏のシーズンには管理人さんも駐在する。
GWもいる時があるみたいだけど、今回はいない。
それどころか、この日、小屋に泊まったのは僕だけだった。
GW中日の平日とはいえ、さすがに何人かはいるだろうと思っていたのだが、まさかひとりとは。

銀マットと毛布の貸し出しがあるのだが、原則ひとり1枚ずつのところを今回は使い放題。
これだったらシュラフは持って来る必要なかったね。


こんなにきれいで立派な小屋をひとりで自由に使えるのはラッキー。
でも、夜、人気のない小屋に少しだけ怖いと思ったのはここだけの話。

ちなみに、使用料は協力金という形で1泊2000円。
小屋の前には水場もあるのでありがたい。(雪解け水なので夏場は涸れてしまうようなので注意)
ただ、ビニールホースのにおい(味)が付いていて、あまり美味しいとは言えないけど。

荷物を整理した後、小屋の前から山頂を見上げる。
30分ぐらいで登れる距離なのだが、正直なところ、これ以上、登る元気がない。
山頂は翌朝でいいやと思い、小屋でゆっくり過ごすことにする。


雪山泊の楽しみと言ったらこれでしょ。


ちょっと早いけど、お腹が空いていたので夕飯の準備にかかる。
今日のメニューはパスタとワカメスープ。 


夕飯を食べ終える頃には、山の様子はすっかり夕暮れの風景に変わって来ていた。
景色がまどろんで時間の流れの中に溶けていくような、この一瞬一瞬が好き。


日没の時間も近づいてきたが、太陽はすでに山頂の向こう側に隠れてしまった。
つまりは、夕焼けを見るためには山頂に登らなければならないわけだが…
今日はもう登れん、と思っていたけど、
この天気なら間違いなくきれいな夕焼けになるだろうし、行ってしまおう。


そう決めたら、日没まではそんなに時間はない。
急いでアイゼンを付けて、空身で急斜面に取り付く。
夕飯を食べてしっかり休んだら、思いのほか体力も回復していて、意外と楽に登れた。

20分ぐらい掛けて平らな山頂部に上がると、予想通りの夕焼け。


18:20 越後駒ヶ岳・山頂
小高い丘に登れば、そこが越後駒ヶ岳の山頂。
山頂柱の隣には、何故ここにおられるか分からないけど、猿田彦大神銅像も。


目の前に広がるのは八海山と魚沼平野に沈みゆく夕陽。
やっぱり登ってきて良かった、と思える瞬間。


八海山の山頂部、ギザギザの八ッ峰。


越後三山のもうひとつ、中ノ岳。
その後ろで靄から頭を出しているのは巻機山


山頂にはベンチがあって、それに腰を下ろして日の入を待つ。
この時間になっても寒さはなく、穏やかな春山の夕刻に一人きり。

越後駒は2000メートルをわずかに超えるだけの山だ。
でも、そこに立てば北アルプスの頂にも負けやしない。
いや、そんなもの、比べることに意味などなく、ここにしかない風景の中、贅沢な時間が流れていく。

そして、夕霞の中に溶けるように夕陽が沈んで行った。


八海山と日の入り。


日没の後に残った茜雲。


陽が落ちると、さすがに冷えてきた。
越後の山々に夜の帳が下りて行く。荒沢岳の上には満月までもう少しの月が昇る。


小屋までは尻セードで楽々の帰還。
雪でキンキンに冷えた缶チューハイで一杯やって、ひとりの夜が更けていく。
やっぱり疲れは溜まっているようで、すぐにウトウト。
翌朝の朝焼けに期待を抱きながら、早めに眠りについた。