稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

乗鞍岳 - 白色と青色だけの純粋な異世界へ

 

日程 : 2018.3.31(土) 日帰り
ルート: 乗鞍高原(休暇村前)駐車場 → 位ヶ原 → 乗鞍岳(ピストン)
天候 : 快晴


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ずっと登りたかった乗鞍岳
夏はバスを使ってお気軽に行けてしまうので、「一番簡単な3000m峰」とも言われる。
バスターミナルのある畳平からだと標高差300m、CTだと90分で山頂に立ててしまう。
それはあまりにも味気ないというもので、この山に登るなら積雪期と決めていた。

積雪期の登山起点となるのは乗鞍高原スキー場(Mt.乗鞍スノーリゾート)。
スキー場のリフトを利用すれば、もちろん楽ができるんだけど、営業開始は8:45。
下山が早いバックカントリーならこの時間でも問題ないだろうが、日帰り登山のスタートとしては、ちょっと遅すぎる。
解決策は…、リフト営業前に自力で麓から登り上げるしかない。

早朝、車で入れる最奥地の「休暇村 乗鞍高原」を目指す。
乗鞍観光センターの前では、白々と明けてきた空に、乗鞍岳が淡く浮かび上がっていた。


6:25 休暇村前 駐車場(登山開始)
休暇村前の駐車場に着くと、すでに数組が出発していくところで、この山の人気が伺える。
目の前のゲレンデがなかなかの急斜面なので、スタートからアイゼンを装着してしまう。
右側のゲレンデから、いざ登山開始。


ここでちょっと失敗…
ゲレンデって距離感が掴みづらいせいか、オーバーペース気味で入ってしまった。
これが後々、響くことに…。
ここは、意識的にゆっくり登り始めるのが正解だと思う。


リフト1本分を登り切ると、正面に大きく乗鞍岳が姿を現す。


三本滝レストハウスのそばに来ると、県道の標識が佇んでいた。
道路はまだまだたくさんの雪の下。


これが今回の行程で一番キツいとの疑惑もある「かもしかコース」の壁(苦笑)
写真では伝わりにくいと思うが、本当に急斜面で息は切れ切れ。
ゲレンデデータだと最大斜度は33°となっているが、もっとあったように感じる。
きれいに整地されたゲレンデは足掛かりがなく、登りづらいのもツライ。


スタートから1時間20分掛かって、ゲレンデトップに到着。
すでになかなかの疲労感で、まだまだ先は長いのに困ったものだ…。
ここまで400m登って来たが、乗鞍岳の山頂までは1000mの標高差が残っている。
ここからバックカントリーのツアーコースに入る。


ツアーコースは防火帯のように森が広く切り開かれている。
雪面は踏抜き跡やシュプールが凍って凸凹が多く、やや歩きづらかった。


しばらく行くと、シラビソの森の向こうに真っ白な剣ヶ峰の頂が見えて来た。


反対を振り向くと、南アルプス中央アルプスの山並みが連なっている。
今日はしっかりと遠方の視界が得られており、この後の眺望も楽しみである。


さらに登れば徐々に前方の視界が開けて、左側に高天ヶ原も見えるようになる。


8:55 ツアーコース終点(位ヶ原山荘分岐)
麓のスタートから2時間半掛かってツアーコースの終点に到着。
ここは位ヶ原山荘への分岐となっている。
山荘までは30分以上掛かるので、ちょっと立ち寄るという感じではない。
注意喚起の看板にあるように、この先の位ヶ原は明確なルートはなく、悪天時は道迷いに注意が必要である。



この急登をクリアすれば、位ヶ原に出る。


そして、飛び込んで来るのはこの景色。
ちょっと感動的にも思える真っ白な風景が広がっていた。


広い雪原の向こうに鎮座する乗鞍岳
静かにそこにあって、でも、圧倒的な存在感を示している。


雲ひとつない快晴のもと、開放的すぎる位ヶ原。
本当に広すぎて距離感が掴めず、現実を感じづらいというか、なんだか不思議な空間だった。
白色と青色のシンプルで、ただ純粋に美しい世界。
この雪山と青空しかない壮大すぎる風景、なんだか異世界に来たようにも感じる。


横目に高天ヶ原を見ながら登り続ける。


大きく構えている主峰の剣ヶ峰。
主峰だけでなく、小さなピークにもひとつひとつ名前が付いている。
左側から剣ヶ峰、蚕玉岳、朝日岳
一般的な雪山ルートは正面の鞍部にある肩ノ小屋を経由し、あの三峰を登っていく。


右側には穂高も登場。
まだまだ厳しい冬の姿である。
穂高と奥穂高を結ぶ吊尾根が格好良すぎる。


槍ヶ岳はやはり独特の存在感がある。


前方に見える建物は、肩の小屋口のトイレ。
すぐ近くに見えるんだけど、なかなか近づかない。
雪原は遠近感が掴みづらく、これぞ雪原マジックか?


トイレ(冬は使用不可)はまだ半分ぐらい雪に埋まっていた。


早くも下山してきた人たちとすれ違った。
写真ではだいぶ近づいてきたように見えるが、実際は心折れそうなぐらいに遠く感じた。


肩の小屋に向かう斜面は遠くからだと緩く見えたが、なかなかの急登で苦戦。
序盤がオーバーペース気味だったせいか、疲れで歩みが遅くなる一方…。
雪面はしっかり締まっており、踏抜きがないのは救いである。


位ヶ原の雪原を振り返り見ると、遠景には八ヶ岳


最高峰の剣ヶ峰は一番左。
雪の状態が良ければ、正面の斜面をトラバースして距離的にショートカットすることもできるが、今回はトレースに従って、肩ノ小屋から稜線を伝う。


右手の摩利支天岳山頂に立つ乗鞍コロナ観測所。


10:30 肩ノ小屋
休み休み歩いて、やっと肩ノ小屋に到着。
小屋は半分ぐらい雪に埋もれていた。


休憩したあと、山頂に向けてアタック開始。
手前の丸いピークが朝日岳で、巻き気味に稜線へ出る。


風は多少あるものの強風というほどではなく、コンディションは抜群。


西側には白山も見えるように。


一歩一歩、着実に山頂へ。
ちなみに見えているのはピークは蚕玉岳で、剣ヶ峰はあの向こう側に隠れている。


このあたりは風の通り道らしく、シュカブラができていた。


多少、雪が柔らかく潜るけど、ワカンなどが必要なほどではなかった。
気持ちの良い雪の感触を楽しみながら登って行く。


朝日岳直下の斜面をトラバース。ここは慎重に行く。


朝日岳と蚕玉岳の鞍部に出ると、剣ヶ峰が一気に近づいたように感じた。
山頂のお社が小さく確認できる。
奥にあるピークは大日岳である。


山頂に向かう前に、振り返って楽しむ北アルプスの大パノラマ。


無条件に格好いい槍・穂高


大日岳とクレーターみたいな権現池。権現池はもちろん雪の下である。
スケールが大きすぎて、一枚の写真では収まり切らない。
ちょっと「君の名は。」の御神体の風景を思い出した。


さて、山頂に向けて最後のもうひと踏ん張り。
ここからは吹き曝しの稜線なので、強風の時は特に注意が必要だろう。
今日はとても穏やかで幸運である。


背後に朝日岳のピークと白山の山並み。


白山を望遠で。


蚕玉岳まで来れば、剣ヶ峰は目と鼻の先である。
山頂の鳥居もしっかり見えて来た。


山頂は目の前だが、ここまで来ても疲れで休み休みになってしまう。
空気が薄く感じる…。
それでも一歩一歩を噛みしめるように、最後の登りをゆっくり行く。


11:55 乗鞍岳・剣ヶ峰
そして、スタートから5時間半、やっとの思いで乗鞍岳・剣ヶ峰に登頂。
神妙な気持ちで鳥居を潜る。


視界を遮るものの何もない山頂に立つ。
ここまでも辛さ、苦しさが消えていき、少し感傷的になってしまいそうな達成感に浸る。


乗鞍本宮奥宮のお社は、まだ半分凍っていた。


それではぐるっと一周、山頂からの眺望を。
何度見ても圧倒される北アルプスの中心部。


左のピークは北ノ俣岳で、稜線を辿ると黒部五郎岳
重なるように薬師岳笠ヶ岳


穂高岳槍ヶ岳


常念岳と手前は霞沢岳。


八ヶ岳連峰。


南アルプス中央アルプス


南アルプスは左から甲斐駒、仙丈ヶ岳北岳間ノ岳農鳥岳


中央アルプスは木曽駒、三ノ沢岳、空木岳、南駒ヶ岳


そして、美しい独立峰の御嶽山


最後は、鳥居の背後に白山。


空は少し春の霞に覆われていたが、これだけクリアなら文句は何もない。

今でこそバスを使って簡単に登れる乗鞍岳だが、敢えて雪山の時期に挑んだのは正解に思う。
信仰を持ってこの頂に立った古の人たちは、ここで何を思っただろう。
こんなにも清々しく、空に近い場所に、神様がいると感じても不思議ではないかも。
僕も少しだけ、そんなことを思った。

眺望を存分に楽しんだら下山開始。
正面に穂高を見ながら最高の雪山ハイクは続く。


朝日岳のトラバース区間
次々と登山者が登ってくるので、タイミングを見計らって、注意しながら進む。


このまま肩ノ小屋まで戻って、往路のピストンとする予定だったが、雪の状態は問題なさそうなので、東斜面にドロップイン。
下からこの斜面を登って来る人も見えた。
かなりの急斜面だが、程よく雪のクッションが効いて、快適に下ることができた。


沢に近いところでは、ガチガチに凍っている箇所もあった。
ただし、氷の上を歩かなくても下まで行けた。


アイスバーンを避けてやや左側に軌道修正。
肩の小屋口のトイレの方向を目指す。


このあたりは立派なシュカブラが発達していた。
自然の造形が美しいが、ひとたび天候が荒れれば厳しい世界に変わるのが想像できる。


尻セードに最適な斜面を一気に滑り降りて時間短縮。
結構、長く滑ることができて楽しかった。


肩の小屋口あたりで今朝、登って来たメインルートと合流して、ここでランチ。


午後になって日が傾いて来ると、光が反射して雪面が輝きはじめた。


お腹いっぱいで眠たいけど、頑張って下山しなければ。


何度も振り返って、神々しいまでの乗鞍岳を見ながら下る。
乗鞍岳をバックに颯爽と滑る山スキーヤーのシルエットが格好いい。
ちなみに、バックカントリーの方が登山者よりも多かったかな。


高天ヶ原にも登れるのだろうか?


そろそろ槍穂も見納めが近づいてきた。


摩利支天岳や富士見岳の斜面もスキーで滑ったら、さぞかし気持ちいいことだろう。
2時を過ぎて、少しまどろんだ風景の中を進む。


乗鞍岳の全景もこれで最後。鈍色に輝く姿を目に焼き付ける。


穂高に引きつけられて、メインルートからやや北側にズレてしまったようだ。
まぁ、晴れていれば、位ヶ原はどこを歩いても大丈夫ではあるが。


急斜面を下って軌道修正。ちょうどツアーコースの終点地点に出ることができた。
謎の腹セード?を試して雪と戯れる山友。。


あとは淡々とツアーコースを下る。


ゲレンデではスキーヤーが来ないタイミングを見計らって、ロング尻セードに成功。
朝イチは急斜面に苦戦したが、帰りは楽々。


かなり疲れはしたが、15時半すぎに無事に下山完了となった。


もし今後、登る人にアドバイスがあるとすれば、登りはじめのゲレンデを意識してゆっくり入ることに尽きる。
距離感が掴めないせいかオーバーペースになり、途中からかなりバテてしまった…。
広い雪原の位ヶ原も同じことが言えるので、しっかりとしたペース管理が肝となるだろう。

位ヶ原から眺めた残雪の乗鞍岳は、純粋で、無垢で、いい意味で非日常的な世界だった。
またひとつ、好きな山の風景が増えたかな。

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