ルート : 室堂 → 雄山 → 別山 → 雷鳥沢 → 室堂 (周回)
天候 : 晴れ のち 曇り
詳細な山行記録は … ヤマレコへ
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今年の夏の天候不順と言ったら…
夏休みは白馬三山の縦走を予定してたが、台風で中止。
他の週末も休みの日はことごとく天気が悪く、結局、8月はどこにも登れずじまい。
そして、やっと訪れた好天予報の週末。
特に日本海沿いが良さそうなので、1泊で立山の周回を計画した。
室堂から雄山に登拝し、別山まで縦走。
憧れの山のひとつ、剱岳を眺めて、翌日、奥大日岳に足を伸ばして室堂に戻る予定だった。
しかし、実際には、このとおりとはいかず…
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9月の1週目ともなれば、もう空いているものと思っていたが、朝の立山駅は混んでいた。
この日のケーブルカー始発は7:00でちょっと遅め。
それでも6時前には切符売り場に列ができ始めており、
どんどんと伸びていくので6時すぎに並ぶことにした。
まわりから聞こえてくる声は、みんな今年の夏山は消化不良だったか、
今日こそはその穴埋めをするという決意に溢れているようで、どこか活気を感じた。
臨時便7:10発のケーブルカーに乗り込む。
ケーブルの終点、美女平で接続する高原バスは適宜、出発していく。
寝不足気味で、バスに揺られてウトウト。
気が付くと、いつしかバスは弥陀ヶ原の雄大な風景の中を進み、室堂に到着した。
バスを降りると、きりりと引き締まったように冷たさを感じる朝の空気。
すでに登山者に賑わうターミナルを早足で抜け、玉殿の湧水で水汲みしてから8時半に出発。
雄山へ登りはじめる前に、ミクリガ池に寄った。
深みのある緑色の水を静かに湛える池の向こうに、別山から剱御前の稜線が構える。
よく見ると、剱御前の背後に少しだけ剱岳が顔を覗かせていた。
剱岳は2年前に後立山の唐松岳から初めて眺めた時、
映画の印象もあったと思うが、その山容の格好の良さに一目惚れ。
今回の山行はその剱岳の全容を間近から眺める、
というか、“憧れの山に会いに行く” ことが最大の目的といえる。
さて、あまりのんびりしていると、ぞくぞくと室堂に到着する登山者で混雑しそうなので、
最初の目標、雄山に向けて出発。
室堂平ではイワイチョウの草紅葉が始まっていて、すっかり秋の気配。
左手に別山と剱御前を眺めながら進む。
もう花の季節は終わりかと思っていたが、
一ノ越に続く石畳の道の脇には、まだまだ花がたくさん咲いていた。
まずは、ウサギギク。
朝の時間は雄山に向かって逆光となるので、写真映りはイマイチ冴えないが、
頂上を見据えながら、まだ傾斜の緩い石畳をゆっくりと登って行く。
花の道は続く。
ミヤマキンポウゲだろうか?
ヤマハハコ。
名前に深い由来でもありそうだが、調べると「山に生えるハハコグサに似た花」というだけみたい。
光輝く、ミヤマアキノキリンソウ。
一ノ越までに一箇所だけ雪渓が残っている場所があった。
距離も短く、まったく問題なし。もうすぐで消えちゃいそうだ。
室堂から少しずつ高度を上げ、振り返ると室堂平の向こうに、大日岳の稜線がどっしりと。
いかにも気持ち良さそうな稜線で、いつかは縦走してみたい。
登りはじめて30分でこの風景は反則的にさえ思えてしまう(苦笑)
出発から前方にかなり大所帯の団体さんが見えていたが、
祓堂で休憩しているところを抜くことができて、ほっとする。
疲れる間もなく着いた一ノ越から雄山山頂を見上げる。
水を一口含んだら、ここからは急な登りに掛かる。
荷揚げのヘリが行き交うのを横目で見ながら、少し登っただけで一ノ越山荘が小さくなっていく。
山荘の背後に控える龍王岳の岩稜、存在感がある。
そのさらに奥、遠くには三角形の笠ヶ岳が目立っていた。
室堂平を望遠で。
ミクリガ池の向こうに広がる地獄谷には緑がなく、荒涼としている火山の風景。
大日岳の向こう側は霞んでいるが、うっすらと富山平野、そして日本海を眺めることができた。
思った以上に急な岩場を一歩ずつ登り、少し傾斜が緩くなった場所から見上げる頂上。
室堂平からも見えていた雄山神社の社務所が大きく近づいてきて、最後の登り。
ふと目を横にやれば、雄山の斜面の肩に剱岳。早く全景を見たい。
10:00 雄山・山頂
そして頂上へ。室堂から1時間半での登頂だった。
社務所から少し離れた三角点からの眺望。
南の方角に雄大な薬師岳。
手前の緑の平原は五色ヶ原。赤い屋根の山荘もはっきり見える。
薬師岳から左に目を向ければ、槍・穂高から常念山脈。
その奥には南アルプス、八ヶ岳、富士山まで見えていたが、写真だと厳しい…
氷河だという御前沢の雪渓の向こうに見えるのは爺ヶ岳、鹿島槍に五竜岳。
双耳峰というイメージのある鹿島槍は、立山から見ると三角に尖っている。
ひと通り眺望を楽しんだあとは、参拝料(500円)を納めて山頂の雄山神社峰本社に。
写真撮影を快諾してくださった神主さんとお社。
お社の建つ山頂は6畳あるかないかの広さで、10名ぐらいずつ順番にご祈祷を受けることになる。
ご祈祷が始まり、太鼓の音が鳴り響くと神妙な気持ちに。
高々と上げられた祝詞が立山の空に吸い込まれていくようだった。
深い信仰があってここまで登って来たわけではなかった。
でも、目を閉じて祝詞を聴いていると、
最近、小さなことだけど色々と上手くいかなくて、少し心が強張っていた自分に気づく。
立山の稜線は風が強く、そして冷たく、ご祈祷を待っている間に体が冷えてしまっていたのだが、
この場所は不思議と風がほとんどなく、
太陽の暖かさで体と一緒に気持ちまでほぐれていく感じがした。
最後に御神酒を一口いただいて、山頂から降りる。
「天地合掌」
この立山は、空の神と大地の神が重なり合う場所。
交通の便がまだない時代、
麓からここまでずっと歩いて来た人たちの思いって、どんなだったのだろう?
この場所に来て、何を感じたのだろう?
それをはかり知ることはできないけど、今この瞬間は、この山の持つ神々しさを感じられた。
登拝の後、大汝山、富士ノ折立、真砂岳を巡って、別山までの稜線を縦走。
ここからは岩場が多くなるので慎重に進む。
アップダウンを繰り返して別山に至る稜線。
別山の向こうに剱岳の頭の部分が見える。剱岳の全景と対面できるまでは、まだ距離がある。
雲が厚くなってきたのが残念だが、視界はクリア。
雄山から20分ぐらいで大汝山に到着。
観ていないが、映画「春を背負って」の舞台となった大汝休憩所。
背後には白馬三山など後立山の稜線が広がる。
岩を攀じ登って大汝山山頂からの眺望。
雄山からは少ししか見えなかった黒部湖を眼下に見下ろし、正面は針ノ木岳、蓮華岳。
富士ノ折立を巻いて通過すると、ガレた斜面を下って内蔵助カールの上部まで急降下。
カールの縁がきれいな弧を描いて続いている。
降り立ったカールの鞍部から富士ノ折立を振り返る。
広大なカールにはまだたくさんの雪が残っていた。
その向こうには後立山の眺望。右から鹿島槍、五竜岳、唐松岳、白馬槍。
白馬岳は見切れてしまったが、この稜線はそれぐらい開けているということ。
近くに見えて、でも、なかなか近づかない別山。最後の登りはなかなか骨が折れそうだ…
真砂岳はほんの少し登るだけだったが、なんとなく巻いてしまった。
12:40 別山
別山への急坂を一歩ずつ登り詰める。
意外にいいペースで登れ、そして別山・南峰に飛び出ると、ついに剱岳の全景が。
これが見たかった。圧倒的な存在感に息を呑む。
少し離れた北峰に向かい、岩の上に腰掛けて剱岳と向き合う。
天を貫く剣の如き山というイメージだが、別山から見ると、意外に尖っていない。
それでも、“岩の殿堂” と称されるように、山全体が大きな岩の塊にも見える。
山頂から伸びる尾根はどれも急峻で、人を寄せ付けない雰囲気を持っている。
立山信仰の世界で、立山三山は極楽浄土。これに対して、剱岳は地獄の針の山なのである。
このあたりは、あとで色々と調べると、なかなか興味深い世界観であったのだが、
それでも、目の前にある剱岳は、僕にとっては“憧れ”の存在。
ただ、あの頂に立ちたいという感情は、不思議と今はまだ湧いてこない。
単純に、その道中の険しさに気が怯んでいるだけかな。
いつかは登りたくなる日が来るかも知れないけど、
こうして眺めているだけの存在であってもいいかなとも思う。
もと来た道を戻り、別山の南峰を過ぎて別山乗越に向かうと
剱沢の源頭部が大きく開けて、また違った剱岳の風景が広がる。
さて、この日は剱御前小舎に泊まって夕方の時間をのんびり過ごし、
翌日、奥大日岳へ登ろうと思っていたが、
小屋は団体が入っているそうで、ひとり布団1枚は厳しいだろうという混雑。
ネットの予約状況で混みそうなことは予測していたので、
雷鳥平まで下りて雷鳥沢ヒュッテに泊まる代案に予定変更したが…
雷鳥平へは雷鳥坂でなく、少し遠回りになるが、傾斜は緩そうな新室堂乗越経由にした。
正面には奥大日岳に続く稜線。
このルートは正解。伸びやかな斜面の向こうに、今日、歩いて来た立山の稜線を見ながら。
まだまだ花も咲いていた。
ニガナっぽいけど、名前は?
綿毛になったチングルマがたくさん。チングルマ好きとしては、花の時期に歩いてみたい。
さすがに花はないかと思っていたが、数箇所だけ咲いているところもあった。
遅くまで雪が残っていたのだろうか?
やっぱり可愛いらしい。
タテヤマリンドウも。
奥大日岳に続く気持ちのいいトレイル。歩く人もほとんどなく、静かな山歩き。
この続きは翌日、と、この時は思っていたけど…
雷鳥平を見下ろして。地獄谷の噴煙も見える。
テン場を望遠で。傾きかけた西日でカラフルなテントたちが輝いて見える。
新室堂乗越から稜線を外れて、雄大な立山の風景を眺めながら雷鳥平に下る。
15:40 雷鳥平
そして、雷鳥沢ヒュッテに着くと想定外の事態に…。
予約でいっぱいで今日は泊まれないとの返答。ここまでの混雑とは思っていなかった。
受付のお兄さんに「まだバスありまので」と言われて、がっくりと肩を落とす。
最終は17:05室堂発。現在時刻15:50。余裕はありそうだけど、
ここで終わりと思っていたので、気持ちを入れ替えるのが…。
とはいえ、結構、疲れていたので、どのくらい掛かるかわからないし、急いで再出発。
ということで、さよなら雷鳥沢の写真。ここでゆっくり過ごしたかった。
雷鳥平から室堂の登り返しがなんとしんどいことか。
時間を気にしながらの登山って、精神的に良くない…。
途中、雷鳥平に下るたくさんの人たちとすれ違う。ほとんどが軽装のツアー客。
今日はアルペンルートの観光で、翌日、雄山に登るって感じかな。
必死に登って、ミクリガ池に戻ると、30分は余裕ができてひと安心。
最後に、曇りがちだった空に青空も見えてきて、池の向こうの剱御前が明るく照らされていた。
雷鳥沢の夕焼けを見たかったなと、ちょっと恨めしい気持ちでバスターミナルに向かう。
結局、16:40に臨時のバスが出て、予定より少しだけ早く帰ることができた。
最後はバタバタしてしまったけど、でもまぁ、夏の終わりに、いい山旅ができたかな。
雄大な景観が広がる立山。
たくさんの花咲く立山。
「この世とあの世」の境目を感じる立山。
そして、歩き終えた今、どこか心が満たされたような思い。
いつかまた来ようと、離れていく立山の風景をバスの車窓から眺めながら思い返すのだった。