稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

御嶽山 - 空と雲と湖と、御嶽、夏の風景 (2014.7.26)

 

ルート : 濁河温泉 → 飛騨頂上 → 摩利支天山 → 三ノ池 → 継子岳 (周回)
天候 : 晴れ

 

詳細な山行記録は … ヤマレコ


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梅雨明け後、最初の休日。
夏山シーズン第一弾(何回行けるか分からないけど)は御嶽山へ。

昨年、田の原から剣ヶ峰、ニノ池まで登ったので、
今度は広い山頂部のその先、継子岳や三ノ池の方へ行きたいと思っていた。
岐阜側の濁河温泉が今回の登山口である。

濁河温泉までのアクセスは遠かった…(中央道の中津川ICから120km)
深夜の国道19号を快調に流し、だいぶ走った気がするけど、木曽福島でまだ半分。
昼間は爽快なドライブルートの開田高原もまだ薄暗く、淡々と走って濁河温泉を目指す。

国道を折れてチャオ御岳スキー場まで登って来ると、正面に朝日に染まる御嶽山が現れた。
日和田富士とも呼ばれる継子岳で、御嶽で一番北側に位置するピークとなる。
登りはじめる前に目指す山がはっきり見るというのは、気持ちが昂って、なかなか良いものだ。


振り返れば、ちょうど太陽が顔を出すところだった。
なだらかであるが堂々としている乗鞍のシルエット。


スキー場から先は狭い道となり、濁河温泉にたどり着いたのは5時半前だった。
登山口に一番近い駐車場は、広さはそこそこあったが、ちょうどスペースが埋まったところだった。
少し下の旅館街の中にも駐車場があったので、戻ってそこに停めた。

準備を整えて、いざスタート。
登山口にあった地図では、とりあえずの目標となる飛騨頂上まで3時間のコースタイム。
歩きはじめはコメツガなど針葉樹の原生林を行く。


御嶽の北側斜面を登っているので、この時間では太陽の光も届かず、どこか薄暗く、
眺望もないので、黙々と一歩ずつ進むのみ。
序盤で唯一といっていいイベント、ジョーズ岩を通過。


1時間ほど登ると、湯の花峠(わずかに硫黄の香りがした)で一瞬だけ眺望が広がった。
見上げた先が最初に登る予定の摩利支天のようだ。


すぐに樹林帯に入った後、のぞき岩で再びの眺望。目指す摩利支天が少しだけ近づいた。
何より、快晴の空が嬉しい。


順調に高度を稼いで、八合目で小休止。
お助け水という地名が付いているが、水は枯れてしまっている。

八合目を過ぎてしばらくすると、いよいよ森林限界を越えて、気持ちのいい山歩きが始まる。


横目に見えて来るのは、乗鞍岳の裾野の向こうにきれいな三角形の笠ヶ岳
ということは、右側に続いているのが双六岳になるだろうか?
笠ヶ岳の左側は黒部五郎岳薬師岳で、いずれ歩いてみたいエリアだ。


摩利支天山と継子岳の鞍部にある飛騨頂上が近づいてきた。


振り返ると出発した濁河温泉の旅館街が小さく見え、
2時間半でこんなにも登れてしまうものなのかと、少し驚く。
麓には雲海が出来つつあった。


その雲の中から顔を出す白山を見つけた。


8:10 飛騨頂上
周囲はハイマツ帯から砂礫地に変わり、コマクサの咲く登山道を登り切って飛騨頂上に立つ。
濁河温泉から2時間40分だった。
摩利支天まで続く登りが見えるので、あまりピークに立った感じはしないが、いちおうの達成感。


それでも景色は素晴らしい。
目に飛び込んで来るのが火山湖の三ノ池で、さざ波が立ってキラキラと輝いていた。
下界では雲が湧いているが、上がって来る様子はない。
雲の向こうには木曽駒を中心とする中央アルプス、その背後に南アルプスが重なって見えた。


雲海に浮かぶ八ヶ岳。雲を掻き分けて進む船のようでかっこいい。
あちらも絶好の登山日和だろう。


さて、少し風景を楽しんだら、摩利支天に向かって再び歩き出す。
小さな五ノ池から摩利支天乗越に続く稜線を見上げる。
背景の青空が“夏の色”って感じで、まだまだ気持ちも足取りも軽い。


登りはじめた稜線はお花畑になっていた。
まずは、小さな星のようなイワツメクサ


ミヤマダイコンソウだと思うが、自信はない。
黄色系の花はキンバイだとか、キンポウゲだとか、いつまでたっても見分けられない…


振り返えると、五の池小屋からおそらくカルデラの縁をなぞるように続く継子岳。
継子岳には摩利支天の後、三ノ池を経由して向かう予定であり、
御嶽の北側をぐるっと一周することになる。
継子岳の背後には乗鞍岳北アルプスの山並みが控える。


摩利支天乗越までたどり着くと荒涼とした賽の河原が目の前に広がった。
その先に剣ヶ峰が大きく構えている。
昨年は向こう側からこっちを見ていたわけだ。
賽の河原を歩いてニノ池まで行けば南北の線が繋がるのだが、あとの行程を考えてやめておく。


乗越からは西に進路を取り、摩利支天山の三角点を目指そう。
この道中にも花がたくさん咲いていた。


寄り添うように、ハクサンイチゲ


イワベンケイだろうか? 自信なし。


イワカガミ。


そういえば、昨年、田の原から剣ヶ峰に登った時は、時期が1ヶ月、早いこともあるかも知れないが、
イワカガミぐらいしか咲いていなかった。
それに比べて、北御嶽は本当に花が多い。

ほのかに桜色をした小さい花のツガザクラ


ハクサンイチゲのお花畑の向こうに見えるのは継母岳。


9:05 摩利支天山
摩利支天は東西に岩稜が伸びていて、大まかに三峰に分かれているようだが、
最も西側の峰に三角点があり、そこで道も終わる。
最後は少し岩場をよじ登って、“摩利支天頂上”の看板の立つ三角点に到着。


ここから乗鞍と槍穂連峰を見ると、乗鞍岳槍ヶ岳がぴったりと並んでいた。


少し休んだ後、来た道を戻る。
そういえば、摩利支天乗越からの往復の間、他の登山者とは誰にも会わなかった。
行き止まりであるためか、立ち寄る人は少ないのだろうか?
そのおかげで静かに眺望と花たちを楽しむことができた。

摩利支天乗越の岩場に咲く花を見ながら、賽の河原へ下る。


避難小屋の手前で摩利支天乗越を巻いて飛騨頂上・五の池小屋に至る道が分かれ、
三ノ池へはここを下っていく。

御嶽山最大の火山湖である三ノ池は、日本の高山湖の中で最も深い湖(水深は13m)らしい。
紺碧の水を湛える姿はただただ美しく、
剣ヶ峰の荒々しさとは違った、北御嶽の持つ和やかな表情の対比が気持ちを穏やかにしてくれる。


飛騨頂上への道から分かれて、さらに下って行くといよいよ三ノ池が近づいて来る。
同時にそのスケールの大きさを感じるようになる。

ここからの眺めは空に浮かんでいるようにも見え、天空の楽園を連想してしまう。
麓から上がってくる雲は躍動するが、決して目の前の風景を覆い隠してしまうことはなかった。


10:15 三ノ池
そして降り立った三ノ池。
透明で澄んだ水面を風が渡って行く。
やむことなく風が吹いているので、完全な水鏡とはならないが、
わずかに夏雲を映し出して、静かな時間が流れて行った。


池の畔には鳥居と小さな祠が見え、御嶽信仰の行者さんが入れ替わり立ち替わりに参拝していた。
見ると、皆、水を汲んで持ち帰っていた。
この三ノ池の水は「御神水」と呼ばれ、幾年も腐ることがないという。

僕が“楽園”と感じたこの場所は、信仰を持つ人にとっては神聖な場所でもある。
ただ、信仰を持たない僕でも、こうしてここに立っていると、
この山、この自然の包容力というか、そんな空気を感じることができて不思議である。

池の近くでは、大好きなチングルマが風に揺れていた。


三ノ池に沿った稜線を進み、今後は継子岳を目指す。
途中、昼食とした場所から、これから向かう継子岳方面を見る。思ったよりも登るようだ…


三ノ池の北端から見下ろす池の表情はまた違った。
見る角度、光の当たり方で刻々と湖面の色が変わる。
いつしか、麓から昇ってくる雲が稜線を越えるようになっていて、時折、目の前を通り過ぎていった。


継子岳へは一旦、四ノ池に向かって下ることになる。
そして、また登る距離が増えてしまう…


四ノ池に実際の池はなく、火口跡の広大な窪地となっている。
池の底に降り立つと、ぐるりと囲む外輪が壁のように聳えていた。


四ノ池の中心には清らかな小川が流れていた。
結構な水量で、湧き水なのか? それとも雪解け水か?


ちなみに、この小川は“幻の滝”と呼ばれる滝になって木曽側に落ちている。
ここから滝そのものを見ることはできなかったが、ロープウェイからは眺めることができるそうだ。

小川を渡渉すると、継子Ⅱ峰の登りに掛かる。
上部は岩場となり、疲れてきた足には、かなりしんどかった。


Ⅱ峰からは緩やかに伸びる道となり、継子岳に至る。


途中の砂礫地にはコマクサが群生していた。


継子岳の山頂までは緩やかと思っていたけど、最後はそれなりに急だった…
でも、岩の道が均されていて歩きやすく助かった。

12:25 継子岳
広場のような山頂からは剣ヶ峰、そして、摩利支天山を一望。
今日、歩いてきた道を眺めることができた。


継子岳の山頂もコマクサのお花畑になっていた。


四ノ池の外輪を伝って、五の池小屋へ戻る。
疲れたけど楽しかった山頂散歩ももうすぐお仕舞いとなってしまう。


五の池小屋で一息入れたあと、下山開始。


登りでは気が付かなかったが、
右側の斜面にはビックリするくらいのコマクサの群落が広がっていた。


見納めのコマクサに見送られながら、
小さく下界に見える濁河温泉の旅館街を目指して、気合を入れなおす。

優しく咲く花たち。
楽園のような湖を渡る風、そして、ざわめく水面。
湧き立つ雲と、背景の深い青空。

それらすべてが、夏の御嶽を彩って、風景を作り、
そして、また忘れられない山行がひとつ増えたのだった。