稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

【街歩き】常滑 - 春の風に吹かれて煙突さがし

Introduction:常滑ぶらり、やきもの散歩道

 日程:2023.4.16

 天候:晴れ

 

この週末は鈴鹿の国見岳に登ってアカヤシオを愛でようと思っていた。

土曜は春の嵐で雨降り。

明けた日曜も抜けて行った低気圧が発達して、これは冬型の気圧配置に近い。

こうなると鈴鹿の稜線は風が強そうだし、青空も怪しくなって来る。

 

泣く泣く山行を中止にし、代わりにたまには街歩きでもしようかな。

と、思い立った行き先は常滑である。

知多半島の真ん中あたり、セントレアの対岸に位置するこの街は焼き物(常滑焼)が有名。

今はもう使われていないが、レンガ造りの煙突が点在し、古い街並みが残る。

狭い路地を繋いだ「やきもの散歩道」が整備されているので、ここをゆっくり巡ろう。

とこにゃんに挨拶、煙突さがしのスタート

名鉄に揺られて降り立った常滑駅

名古屋からはセントレア行きの特急に乗れば30分ぐらい。

 

 

駅前にあったやきもの散歩道の案内板。

駅から東に10分ほど行った ”陶磁器会館” をスタートに、1.6kmのコースが設定されている。

いくつかの名所を辿りながら、曲がりくねった路地を行く一周コースである。

今回はコースに拘らず、気ままにぶらりと行くつもり。

 

 

「いってらっしゃい」と、招き猫に見送られてスタート。

常滑では、あちらこちらで招き猫を見かける。

東に向かって切通しになっている緩やかな坂道を登って行く。

やがて頭上の高いところに掛かる北山橋をくぐる。

左手に細い急坂の路地があるので、これをエイっと登るとさっきの橋の袂に出る。

そこに現れるのは…

 

 

なかなかの圧を感じる巨大招き猫。

その名を「とこにゃん」という。

”見守り猫” らしく、この街の安全と平和を守っているようだ。

顔の下にはライトが設置されているので、夜には光るのだろう。(ちょっと怖そう…)

 

とこちゃんに挨拶を済ませたら、煙突さがしのぶらり散歩のスタート。

早速、ひとつめの煙突を発見。

建物に挟まれるように立つ煙突だった。

このあたりには陶器作りの工房が点在して、味わい深い雰囲気がある。

 

 

陶器を扱うギャラリーもたくさんで、中には陶芸体験ができるところもあるようだ。

古民家を使っているのだろうか、しっとりと趣のある佇まい。

 

 

 

ギャラリーのひとつに入ってみる。

柔らかな春の陽射しで、作品のひとつひとつが温かみのある優しい色合いに。

 

端午の節句が近いので、陶器の鯉のぼりもあったり。

見上げれば、屋根の向こうに煙突みっけ。

 

 

煙突の袂に、遊び心に溢れるオブジェ。

この時は ”急須猫” 探してやろう、と思っていたけど、すぐにすっかり忘れる(苦笑

 

 

そして、そばにはツルニチニチソウが咲いていた。

 

猫を追いかけて、デンデン坂、土管坂

細い路地に入ってずんずん進むと、横から出て来た猫さんと鉢合わせ。

しばらく対峙した後、くるりと向きを変えて反対方向に進む猫を追いかけて奥へ。

 

 

 

散歩中、他にもたくさん猫を見かけた。

そうそう、この常滑はアニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」の舞台である。

ファンタジー系の切ない恋の物語で、自分的には好きな世界観だったし、ヨルシカの曲も良かった。

コロナで劇場上映が中止になり、代わりにNetflixで公開された作品。

今でもNetflixで配信されているので、観たことない方はぜひ。

 

・ 泣きたい私は猫をかぶる:常滑が舞台の切ない青春ストーリー

陶磁器会館にはロケ地マップと巡礼ノートがあった。

人がすれ違うのにも少し気を遣うような狭い路地を進んで行く。

このあたりには古民家カフェがたくさんあって、これらを巡るのも楽しそう。

左側は子供たちの作った焼き物の絵画かな?

常滑の街では色んなところに陶器が使われていて、それだけで味がある。

日常に馴染んでいて、どこも落ち着きのある風景を作っていた。

 

 

右手から登って来る坂はデンデン坂

この坂の途中には廻船問屋瀧田家があって、船が入って来た時にでんでん太鼓で伝えたのが名前の由来、という説がある。

ちなみ、この坂を下から登って来るのが正規コース。

廻船問屋瀧田家は今回はスルー(¥200)

デンデン坂はかなりの急坂。

片側の壁は古い焼酎瓶が敷き詰められて並んでいて、常滑らしい風情があった。

 

誰かが椿の花を飾っていて、なんだかお洒落に。

坂の下まで下って行くと、民家の軒先にノースポールが咲いていた。

春の陽を受けて、背伸びしている感じに見える。

背後のトラの置物も気になる。

デンデン坂を登り返して、もと来た道を少し行くと、今度は土管坂に出会う。

左右の壁には土管(明治期)と焼酎瓶(昭和初期)が積まれている。

路盤の丸い模様は、土管を焼成する時に使った “ケサワ” という焼台なのだそう。

左右、足元を常滑焼に囲まれた空間は、どこかノスタルジック。

 

ちょっとだけスーパーマリオを思い出した(笑

土管坂の前にある公園にはネモフィラが咲いていた。

土鍋のカレーうどん&カメラで溢れるカフェ

やきもの散歩道はこの先、登窯などのある一番南側の地区に向かう。

しかし、ここは土管坂を登って、一旦ショートカット。

ランチとして目星を付けていたカフェに向かうことにした。

 

やきもの散歩道の駐車場をかすめて北上すると、煙突や窯跡が点在するエリアへ。

ひと際目を引く、背の高い煙突が一本。

 

 

こっちは窯と隣接する煙突。

蔦の絡んだ様がレンガと馴染んで、これまた情緒的な風景である。

 

 

朽ちて行きそうな窯には部分的に光が当たって、どこか物悲しさも感じる。

 

てるてる坊主たちの記念撮影。

この窯の裏手に回ると、とてもいい雰囲気の長屋が現れる。

ケヤキから落ちる木漏れ日が心地よい空間である。

この長屋、もとは土管工場だったらしい。

ここにある侘助が本日のランチと決めて来た店である。

 

 

11時開店の5分ほど前だったが、すでに先客もあり入れてもらえた。

甘味処ではあるのだが、うどんもやっており、「土鍋カレーうどんが気になって、この店を選んだ。

かき氷などの甘味も気になるが、今日のところは…

味わいと落ち着きのある佇まいの店内。

やがて運ばれて来たカレーうどんは、土鍋の中でグツグツとしている。

当然の如く熱々で、出汁がしっかりと香るカレーが美味しい。

うどんはあまり見慣れない半透明のもので、モチモチしていて、カレーに良く絡む。

 

 

初めからすごく辛いってことはないけど、途中で温泉卵を入れてマイルドに。

そして、最後には残ったルーの中に御飯を投入して、カレーおじや風にして〆る。

いやはや満足。

 

 

侘助:甘味とうどん。名物「土鍋カレーうどん」はおすすめ。


お腹も満たされて、散策を再開。

侘助の向かいには、陶器や籠の雑貨を扱うスペースもあった。

 

 

ギャラリーや工房の集まるエリアに向かうと、ちょっと面白い煙突が。

木が煙突から突き抜けて生えている。

これが今回の煙突探しで、一番個性的な一本かな。

 

 

ぶらぶら歩いていると、「Kyoto Cafe 写真展」と小さな看板が出ているギャラリーを発見。

気になって入ってみることに。

ここも古民家を改装したギャラリーカフェのようで、SUGI CAFE」という名前。

急な階段が掛かっており、2階によじ登る感じで、いかにも隠れ家的。

 

 

カフェの営業は12時からのようで、まだ時間前。

でも、ギャラリーの方は勝手に入れる感じだったので、お邪魔しちゃう。

 

窓際に飾ってあったモノクロの写真。

真っ暗だけど、こういう演出なのかと思った(苦笑

窓から差し込む光でできた明と暗がいい。

おそらく板張りの床が軋む音を聞いて、カフェのご主人が来て、ライトを付けてくれた。
「カフェの中にも写真があるので、ぜひ見て行ってください」と。

 


ギャラリーの写真をぐるっと見させてもらって、今度はカフェの方へ。

店内は写真だけでなくで、カメラがたくさん。

どれもフィルムカメラで、聞けば、家にまだまだいっぱいあるとのこと。

 

ご主人のこだわりを感じる空間。

食後の珈琲をいただいて行くことに。

クラシック音楽が流れ(たぶんめちゃいいスピーカーで高音質)、ゆったり珈琲を待つ。

 

カメラってインテリアとしても秀逸。
エチオピアモカ。すごくいい香り。

珈琲を飲み終わったら、物腰の柔らかいご主人とちょっとカメラの話を。

フィルムの魅力を教えてもらったり、自分は普段は山で写真を撮ってる話をしたり。

見つけたのはたまたまだったけど、居心地が良すぎるカフェだった。

常滑に来る機会があったら、再訪は確定的である。

 

SUGI CAFE:クラシック音楽とカメラで溢れる居心地のいい空間。

登窯へ、風景に馴染む煙突たち

すっかりゆっくりとしてしまったが、まだまだ煙突さがしは続く。

やはり一本一本、みんな違う表情を持っていて、見つける度になんだか嬉しくなる。

 

小高い丘にあって、森の中に立つように見える。

昔の陶器工房そのままって感じ。

昼前にショートカットした登窯のある地区を目指して、ゆるり散歩しながら。

 

「急須 有リマス」

マグカップを買って帰ろうかと思ったが、選び切れなかった…

新緑と春の空に映える煙突たち。

 

木に飲まれて行ってしまいそう。

新緑も鮮やか。

やきもの散歩道の一番南側は、工房やギャラリーが密集していて、ノスタルジックな風景が広がる。

 

 

アイビーに埋もれそうな猫の置物と一緒に。

個性的な作品を扱うギャラリーも多かった。

そして、やきもの散歩道で一番のランドマークと言っていい「登窯」にやって来た。

登窯というのは、斜面を利用して階段状にたくさんの焼成室を並べた大型の窯である。

熱の対流を利用して、炉内温度を高温で一定に保てるように工夫されているらしい。

この陶栄窯は、現存する(昭和49まで使用)登窯では日本最古、最大級だそうだ。

10本の煙突が並ぶ姿は、なかなか壮観だった。

 

みんな煙突の高さが異なるんだけど、なんでだろう?

内部の様子を覗くこともできる。

登窯をぐるっとして、隣の登窯広場へ。

広場の中央には陶器でできた大きなオブジェがある。

ここは「泣きたい私は猫をかぶる」でなかなか重要で切ないシーンで出てくる場所だ。

映画そのままで、ちょっと感動。

 

 

これで、やきもの散歩道はだいたい回れたので、そろそろ煙突さがしもお終い。

駅に戻る途中で、全体が蔦に飲み込まれた煙突があって、これが最後の一本。

 

 

陶磁器会館から駅に下って行くところで、大きな招き猫に見送られて。

 

あとがき

今はもう使われていない古い焼き窯や煙突たち。

切り取り方によっては寂しげでもあるのだけれど、それよりもなんだか温もりを感じた。

そこに根付いている焼き物の文化が、風景に馴染んで味わいとなっているのかな。

 

そういうのが伝わってきて、それがとても輝いて見える。

常滑は、そんな魅力的な街だった。

 

また、ぶらりと歩きに来よう。

 

 

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<参考>

・ とこなめ観光ナビ:「やきもの散歩道」のページにコース地図あり。