稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

イブネ - 深まる鈴鹿の秋、静かな紅葉の尾根を抜けて苔の大地へ

イブネ:山登りの記録

 日程:2021. 11. 3(日帰り)

 天候:晴れ 時々 曇り

 

コースタイム

 朝明渓谷駐車場 6:10 → 中峠 7:15 → 大瀞 7:45 - 8:00 → お金明神 8:40 -8:50

 → 作ノ峰 9:20 → ワサビ峠 9:35 → クラシジャンダルム 10:10 → クラシ 10:40

 → イブネ 11:15 - 12:00 → 杉峠 12:35 → コクイ谷出合 13:40 -13:50

 → 根の平峠 14:30 → 朝明渓谷駐車場 15:25

 登山時間:9時間15分

Introduction:苔の楽園と鈴鹿の静かな紅葉

11月初め、紅葉がかなり低いところまで降りて来たので、久しぶりに鈴鹿へ。

今回の目的地は、ずっと行ってみたかったイブネである。

 

鈴鹿奥座敷” なんて言い方もされるイブネを一言で表せば「苔の楽園」

写真で見ると、開けた台地に広がる美しい苔の風景がなんとも魅力的なのである。

以前は玄人のみが訪れる場所だったが、最近は東近江市選定の鈴鹿10座に選ばれ、看板などが整備されて敷居は低くなったようだ。

 

イブネを目指す場合、三重側の朝明渓谷か、滋賀側の甲津畑から旧千種街道で杉峠を経由するルートが一般的である。

しかし、今回歩くコースは次のような感じだ。

 

スタートは朝明渓谷で、中峠へ登り、神崎川に一旦下る。

そこからお金明神、クラシジャンダルムを経由するクラシ北尾根でイブネへ。

ちなみにこの部分は、いわゆるバリエーションルートになる。

帰りは杉峠経由で千種街道を進み、根の平峠から朝明渓谷へ戻る。

 

結論から言ってしまうが、このコースは最大級にお薦めできる。

もちろん、バリエーションルートを含むので、それなりの心構えで入った方がいい。

ただ、クラシ北尾根も踏み跡がしっかりあり、難易度は低めに思う。

当然、登山者は少なく、静かな鈴鹿の秋にどっぷりと浸ることができた。

そして、紅葉の森からイブネへ飛び出す場面は、ちょっと感動的ですらあった。

中峠から神崎川へ、大瀞の渡渉は核心?

6:10 朝明渓谷駐車場(登山開始)

紅葉最盛期の鈴鹿、朝明渓谷の駐車場にはまだ薄暗いうちから続々と車が入って来る。

今回のコースは長いので、ちょうど日の出時刻にスタート。

天気予報は晴れだが、鈴鹿の稜線上は空は雲が多めのようだ。

 

 

しばらく林道を歩いて、中峠への分岐から登山道に入る。

 

 

曙滝という小さな滝を過ぎると、その先はゴルシュぽい谷を詰めて行く。

ここの登りはなかなかキツイ。

 

 

視界が開け始めて、稜線までもう少しな感じ。

 

 

稜線の県境尾根の直下は、なかなか急峻に地形になっている。

奥には釈迦ヶ岳があるはずだが、ガスで隠れてしまっている。

紅葉は鮮やかでこの先が楽しみ。

7:15 中峠

スタートからちょうど1時間で中峠に到着。

空から軽く雨粒が落ちて来たが、三重側からは陽が差している。

滋賀(琵琶湖)側からの風で稜線にガスが出来ている感じだった。

 

四日市とか伊勢湾の眺望。

中峠から一旦、神崎川に向けて下って行く。

 

 

大瀞まで下りて来るとこの看板に出会う。

以前は神崎川に鉄橋が架かっていたのだが、今は壊れて通行できない。

ということで、本流まで降りて渡渉することになる。

 

 

その前になんとなく橋の状態を見に行く。

これは完全にダメだ…、間違っても渡ろうとしてはいけない。

随分この状態のままになっているようだが、直す予定はないのかな?

 

 

急斜面を降りると神崎川(愛知川)に出合う。

写真だと簡単に渡れそうに見えるかも知れないが、意外に水量が多く、緊張感のある渡渉になる。

 

 

下流側は岩がせり立ち、なかなか景勝的な風景になっている。

こっち側を渡るのは、とても無理。

 

 

渡るべきは上流側だが、あと一歩がない。

しかも茶色い石がめちゃくちゃ滑るので危険…

ということで、靴を脱いで渡ることに。

この渡渉が今回の山行の核心部になろううとは。

水はめちゃくちゃ冷たいし、裸足でも川の中の石も滑るし…、なかなか難儀した。

川底を選んで慎重に進んだ。

一番深いところで膝まで。

水量が多いと渡るのは難しくなるかも知れない。

クラシ北尾根、輝くような紅葉に包まれて

8:20 お金谷出合

渡渉を終えて、左岸を下流に向かって進む。

15分ぐらいでお金谷出合の看板がある。

ここからお金明神、お金峠に向かってバリエーションルートに突入する。

 

看板の下には手書きの案内図。

涸れ沢になっているお金谷を詰めて行く。

 

 

頭上は紅葉がいい感じになって来た。

徐々に陽も照って来て、より鮮やかに。

谷から逸れて急斜面を上がると、お金明神という大岩が現れる。

天狗の顔のような奇石で、古くから信仰があったらしい。

 

 

お金明神からお金峠へ向かうが、ここでちょっとしたルートミス。

ピンクテープが見える方向に下って行ってしまい、下り過ぎなのでおかしいことに気が付いた。

お金明神に寄らないルートに入って、もと来た方へ戻っていた。

さらにお金峠でも先行者に釣られて、まっすぐ行っちゃう失敗…

しっかり読図しないといけないと再認識した。

 

 

気を取り直して、クラシ北尾根に入り、お金峠からイブネを目指す。

ルートは写真の様にはっきりと踏み跡がある区間もあれば、不明瞭な部分もあり。

いくつも小ピークを越えて行くが、急な斜面は特にわかりづらく、無理くり登る箇所が多数あった。

ただ、基本は尾根筋を外さなければ、迷うことはないと思う。

 

 

程よく緊張感のある山歩きとなるが、紅葉は最高に綺麗だった。

 

ところどころでは視界が開ける。御在所岳方面。

若めの木が多い印象だが、中には立派なブナもたくさんあった。

 

ブナの木を見上げて。

この黄金色に輝く黄葉が大好きだ。

 

 

地面を敷き詰めた落ち葉にこぼれる陽の光もいい。

ちなみにこの写真は高岩というピークだが、ここはちょっと注意。

道なりに行きたくなるが、右に折れるのが正解。

 

 

陽に透ける紅葉たちが最高に心地いい。

 

頭上には色付いたカエデのシャワー。

ワサビ峠を過ぎると、写真では分かりづらいが、両側が切れ気味の細めの尾根道も出て来る。

このあたりはイワカガミの葉っぱがたくさんだったので、春にも歩いてみたい。

 

 

10:10 クラシジャンダルム

前方に見えてきたのは、誰が名付けたか「クラシジャンダルム」

急峻なピークが確かにそれっぽいが、ちょっと言い過ぎ感はある。

本当のジャンダルムは未踏だが、先に鈴鹿のジャンを制しておこう(笑

ここの岩場はザレ気味なので慎重に。

眼下にはスポットライトのように輝く紅葉。

 

ここのピークも一旦下って、なかなかの急斜面を登り返し。

クラシ北尾根はアップダウンの多い、骨のあるルートだ。

 

 

このあたりの紅葉は山々を埋め尽くすようにで、本当にすごい。

鈴鹿にもこんな場所があるんだな。

タイミング悪く、雲で陽が遮られてしまい、写真映りがイマイチなのが残念。

 

釈迦ヶ岳方面の眺望。

急斜面をクリアすると下草の生える地面となり、雰囲気が変わって来た。

 

ここはなかなかの美林だと思うのだが、またもや陽差しに恵まれず…

 

 

疎林の先に平らな地形が見えて来た。

 

 

そして、イブネの末端に到達。

 

イブネ・クラシ、紅葉の森を抜けて行き着いた苔の大地

10:40 クラシ

イブネを楽しむ前に、クラシのピークに寄り道。

背の高いシャクナゲに囲まれた、ちょっと不思議な感じのする空間だった。

眺望はない。

 

 

もと来た道を戻り、いよいよ「苔の世界」、イブネに足を踏み入れる。

平坦な広い台地を埋め尽くす苔の絨毯。

その中に続くトレースが画になる。

 

 

見渡す限りに広がる苔の大地。

これは想像以上の場所で、唯一無二な風景って感じがする。

 

モフモフの苔たち。

ふかふかの苔に降り立った、てるてる坊主たち。

苔をマクロ的に。

苔の大地のすぐ隣には森が広がっていて、なんか不思議。

ちなみに、以前は雨乞岳のような笹原だったらしい。

 

緩やかなピークに登る。

 

 

波打つ苔の絨毯の向こうに紅葉の尾根。

 

 

青空も多くなって来てくれた。

おかげで、自然が造った苔の庭園がいっそう映える。

 

 

さっき見えていた緩いピークは「イブネ北端」と名前が付いていた。

 

イブネ北端からは釈迦ヶ岳が良く見える。

イブネの北側は「銚子」という名前が付いていますが、あちらの森も気持ち良さそう。

 

 

イブネの三角点方面に進む。

正面は雨乞岳。

11:15 イブネ

広い台地なので、どこが山頂という感じではないが、イブネの三角点に到達。

やたら立派な看板には、鈴鹿10座の表記が。

 

 

ここで昼休憩。

 

今回は簡単にカップ麺で。

お湯を沸かしながら空を見上げると、小さいけど彩雲が出ていた。

 

 

秋も深まって来たので、山行にチョコレートを持って来れるようになって幸せ。

道中、拾ってきた落ち葉でデコレーション。

 

 

イブネは眺望も素晴らしい場所だ。

御在所岳と鎌ヶ岳。

御在所岳。電波塔とかロープウェイ駅とか色々建物が見える。

シンボリックな木と鎌ヶ岳。

杉峠から千種街道で下山、最盛期の紅葉を愛でながら

イブネを後にして下山開始。

思いっ切り逆光だが、正面には雨乞岳が大きく聳える。

 

 

下山も長いが、頑張って行こう。

まずは杉峠へ向かう。

 

佐目峠を通過。

振り返って、紅葉に覆われたイブネのピークを仰ぎ見る。

知らなければ、あの先に苔の楽園があるとは思わないよね。

 

 

ミネカエデの黄色が鮮やか。

 

 

杉峠への降下はなかなかの急斜面で、疲れて来た足には堪える。

 

御在所岳と国見岳。

12:35 杉峠

イブネから30分ちょっとで、枯れた一本杉がランドマークの杉峠に到着。

ここからは千種街道で根の平峠を目指す。

 

 

千種街道はかつて織田信長も通ったといわれる古道で、どこか趣きがある。

 

 

杉峠から一段下ると、明治時代に拓けた鉱山跡がある。

こんな山奥だが、小さな町ができ、小学校まであったそうだ。

あちこちに遺構が見られた。

写真は自然に還りつつある石段。

このあたりもなかなかの美林で。秋色に溢れていた。

 

神崎川最上流の渓谷美。

13:40 コクイ谷出合

何度か渡渉をしながら下って、一旦、平坦になるとコクイ谷出合

 

ここもいい場所で、神崎川の流れを見ながら少し休憩。

山に登らずとも、こういうところで一日ゆっくり過ごすのもいいかも知れないな。

この少し下流には「鈴鹿上高地」と呼ばれる場所があって、気になっている。

 

 

コクイ谷出合からは、わずかな起伏がある程度で根の平峠へ。

ここから朝明渓谷までは、もうひと下り。

 

 

堰堤をいくつも越え、沢に沿って下って行く。

 

 

イブネから3時間半で朝明渓谷の駐車場に下山完了。

 

振り返り

イブネは評判どおりにいい場所だった。

予想以上に多くの登山者で賑わっていたが、広々とした苔の大地が、なにか喧噪を吸収してくれるかのようで、ゆったり静かな時間が過ぎて行く気がした。

ここは何度も訪れてみたくなる、そんな場所になりそうだ。

 

イブネに至るルートにクラシ北尾根を選んだのも正解だった。

あくまでバリエーションルートなので、少しでも不安があるなら避けた方がいい。

でも、そこにはありのままの鈴鹿の森が広がっていて、木々たちの息遣いが聞こえる感じ。

大瀞の神崎川の渡渉が思った以上に難所なので、そこには注意を。

 

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<参考>

・ ヤマレコ:山行記録(登山地図など)