稜線に吹く風のむこうへ

その場所だけにしかない風景と出会うために山へ。写真で綴る山登りの記録と記憶。

草津白根山 - 静かなる秋、芳ヶ平からスカイラインを見上げて

f:id:masa_o-chiku:20220331230243j:plain

草津白根山:山登りの記録

 日程:2011.10.8(日帰り)

 天候:快晴

 

コースタイム

 白根レストハウス・弓池 7:00 → 本白根山最高点 8:10 → 鏡池 8:45-9:05

 → 白根レストハウス 10:00 → 芳ヶ平ヒュッテ 11:00 → 芳ヶ平湿原散策

 → 芳ヶ平ヒュッテ 11:30-12:00 →  白根レストハウス 13:00

 登山時間:6時間00分

 

草津白根山2018年に噴火が発生。その後、火山活動は落ち着いているものの、周辺の登山道は立ち入り禁止の措置が取られている(2022年現在)。規制については最新の情報を確認のこと。

Introduction:紅葉の山を歩きたい

よし、山登りをはじめよう、と思い立って、金時山に練習(実際には練習なんて思えないほどしんどかったけど…)で登ったのは8月。

そこからなかなか山に行く予定が付かず、気がつけば季節は過ぎて秋に。

 

10月に入って、ニュースで各地の山が「そろそろ紅葉が見頃を迎えます」と伝えるようになった頃。

やっと時間を作ることができて、どこに行こうかとあれこれ悩む。

 

金時山で自分の実力を思い知らされたので、やっぱり “初心者向け” の山からスタートしなくちゃダメだ、ということに気づき、選んだのが草津白根山だった。

 

しかし、今回の山行、メインは芳ヶ平だったりする。

芳ヶ平は風景写真を撮る者には定番で、前から気になっていた場所である。

志賀草津高原ルートの山田峠や渋峠から見下ろす紅葉の芳ヶ平の写真は有名で、今回は実際にそこを歩いてみた。

それだけだと歩き足りなさそうなので、本白根山の周遊も組み合わせた、という感じ。

まずは本白根山を周回

早朝、草津から志賀草津高原ルートを登りはじめると、すぐに展望が開けて、山の風景が目に飛び込んでくる。

やがて正面に荒涼とした白根山・湯釜の斜面が現れる。

その麓、白根レストハウスが今回の起点である。

 

7:00 白根レストハウス

到着は6時半、広い駐車場はまだ疎らだった。

気温はおそらく氷点下に近かったけど、風はほとんどなく、 思いのほか寒くない。

準備を整えて、7時ちょうどに山歩きスタート。


駐車場から道路を渡れば、すぐそこが弓池である。

色づく木はそれほど多くなかったが、 朝の陽が差し込んで柔らかな紅葉が映える。

 

f:id:masa_o-chiku:20220222071557j:plain

 

弓池をあとにして、まずは本白根山の周遊コースを反時計回りで巡る。
しばらくは舗装道を進み、 スキー場のリフト乗り場が見えたところで登山道がはじまる。

登りはじめるとすぐにシラビソやコメツガなどの樹林帯になる。
針葉樹ばかりなので紅葉はないけれど、朝の瑞々しい空気が気持ち良い。

 

f:id:masa_o-chiku:20220301221953j:plain


ひと登りすると樹林帯を抜け、やがて緩やかな木道となる。

それを進むと不意に大きな噴火口跡に飛び出る。

そのスケール感はかなりのもの。

f:id:masa_o-chiku:20220301223708j:plain

写真は本白根山遊歩道の“最高点”を目指す途中から振り返ったもの。

ここで一旦、周遊コースを外れて最高点へ。

最高点というのは草津白根山本白根山)にはピークが複数あり、 どれを山頂とは決めていないようだ。

ハイマツに囲まれた道を緩く登って行けば、 だんだんと噴火口跡の全容が見えてくる。

そして、さほど時間は掛からず最高点に着いた。

今来た道を見下ろせば、なかなかダイナミックな地形である。

f:id:masa_o-chiku:20220302001959j:plain

まるで中華鍋のようにきれいな形の噴火口跡。

地球が生きていることを思い知らされる感じ。

今は木々の少ないこの風景は、緑の森に変わっていく過程なのかも知れない。

実際には、火山が再び目を覚ますのが先になってしまったわけであるが。
 
道を返して周遊コースに戻る。

本白根山展望所」と名の付くピークへやや急な階段を登る。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302003011j:plain

 

頭上は雲ひとつない快晴だったが、遠方は霞が掛かってしまいクリアでなかったので、 ピークは素通り。

澄んでいれば、浅間山北アルプスの峰々を眺めることができたはずで、やや残念であった。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302003709j:plain

 

そのピークを下って行くと、すぐにハイマツ帯、そして樹林帯へ。

ところどころ急な下りを降りていくと、 やがて木々の間から小さな池が見えるように。

鏡池である。 

 

8:45 鏡池

池畔まで降りるとちょうど先客と入れ違いになり、一人きりに。

少し大きな岩の上に座って、パンを頬張りながら周りを見渡すと、色づいたダケカンバが池の斜面を囲っていた。

f:id:masa_o-chiku:20220302005112j:plain
すらりと伸びる白い幹が美しい。

それにしても静かだ。

時折り小鳥のさえずりが聞こえるだけ。

わずかに吹く風が僕を追い越して、池の水面を揺らす。

なんだかとても心地のよい時間だった。 

 

鏡池からはロープウェイ乗り場方面に向けて淡々と下り。

ところどころに紅葉を見上げ、落ち葉の道を進んでいく。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302010002j:plain

 

弓池まで戻ってくると朝の静けさはなくなり、観光客で溢れていた。
湯釜にジグザグと続く人の列も見える。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302010354j:plain

荒涼とした大地を抜けて芳ヶ原へ

ゆっくりペースで3時間掛けて本白根山の周回路を回って、白根レストハウスに帰還。

時刻は10時、もうひとつの目的地である芳ヶ平へ向かう。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302011427j:plain

 

観光客はみんな湯釜に向かうようで、こちらに向かって歩き出す者はいない。

白根山の荒涼とした斜面を横に見て、芳ヶ平に続く道を緩やかに下って行く。

白い砂が支配的で、どこか寂しげな世界。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302072343j:plain

 

f:id:masa_o-chiku:20220302072828j:plain

 

草木はごく僅かで、月面ってこんな感じなのかな? と思わせる風景の中を歩く。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302073441j:plain

f:id:masa_o-chiku:20220302225139j:plain

時折、硫黄の香りが漂い、立ち枯れている木も。

白根山を回り込むように歩いて行くと、やがて前方が開けてくる。

芳ヶ平に降りていく道がやや急な下りに差し掛かるところで、右手の小高い丘に緩く登る道があることに気がつく。

なんとなくいい予感がして、少し寄り道をしてみることに。

丘の先端に立つと視界が開けて、目指す芳ヶ平を見下ろすことができた。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302230209j:plain

 

ちょっと手前までは、ほとんど木もない大地が続いたのに、眼下に広がるのは笹原と赤く色づいて点在する木々。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302230827j:plain

 

もとの道に戻り、芳ヶ平に降りて行く。

やがて、曲がりくねった道の向こうに、 芳ヶ平ヒュッテの赤い三角屋根が見えてきた。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302231258j:plain

 

このあたりは、もう写真を撮りまくりで、 なかなか進めない。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302233156j:plain

 

f:id:masa_o-chiku:20220302233745j:plain

 

f:id:masa_o-chiku:20220302233844j:plain

 

色で溢れるような森の紅葉も、もちろんいいが、こういう開放的な紅葉もいいものだ。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302234411j:plain

芳ヶ平から ”スカイライン” を見上げる

11:00 芳ヶ平

熊笹の中に真っ赤なナナカマドが映える風景を楽しみながら進むと、いつしか道は平らになって芳ヶ平に到着。

 

f:id:masa_o-chiku:20220302235447j:plain

 

芳ヶ平ヒュッテの前では団体さんが休憩していたので、 ここは素通りして今度は湿原めぐり。

広々とした風景の先に続く、正面の気持ちのいい稜線を見上げる。

f:id:masa_o-chiku:20220302235836j:plain

青いキャンバスのような秋の空を切り取る稜線。

あの稜線、日産のスポーツカー「スカイライン」の名前の由来であることを何かの本か雑誌で読んだ記憶があった。

あとで調べると、開発者であった若者が山スキーで芳ヶ平を訪れた時に見た山並みを忘れられず… というエピソードが出てくる。

 

『俺が造っているクルマもあの稜線のように綺麗なクルマにしたいな。』

 

スカイラインという言葉を教えてくれたのは 、山小屋の親父さんだったそうだ。

 

f:id:masa_o-chiku:20220303001744j:plain

 

それにしても、“スカイライン”って、なんて素敵な音をした言葉なんだろう。

辞書を引いてみると 「skyline;空を背景とした輪郭=稜線」。

この言葉を作った人の感性、なんか好きだな。

 

木道を進んで行くと、奥の方ではカラマツの黄葉も始まっていた。

 

f:id:masa_o-chiku:20220303231155j:plain

 

傍らのベンチに座り、大きく深呼吸。

この場所は、木々も風も、そして見上げた空も、 すべてが優しく感じる。

本当にずっとこの場所に居たくなってしまう気分だった。 
 
でも、その気持ちを振り切って、もと来た道を再び歩き出す。

 

f:id:masa_o-chiku:20220303231702j:plain

 

何度も後ろを振り返りながらも、なかなかのペースで登り続け、レストハウスに着いたのは13時を回ろうとしているところ。

相変わらず、湯釜へと続く観光客の列が見える。

 

ザックをクルマに置いて、湯釜を見に行こうかとも考えたけど、やめておいた。

なんとなく、芳ヶ平の余韻に浸っていたかったから。

 

------

<参考>

・ ヤマレコ:山行記録(登山地図など)

 

草津白根山の火山活動情報:本白根山への登山道は警戒レベルに関わらず、立入禁止となっている模様。(2022現在)

【噴火警戒レベル】草津白根山(白根山(湯釜付近)) - (一社)嬬恋村観光協会